魔法学院の生徒会長4――決着編(後)6
Added 2024-04-08 00:41:00 +0000 UTC* 魔具は、前置きも何もなく魔法を発動させ始めた。 わたしの周囲を包み込むように、魔法が展開していくのを感じる。わたしは全身全霊でそれを把握しにかかる。 あの一回では理解しきれなかったけど、この魔法は、つまり、守護の発展形なのか。 守護対象にとって有害なものを阻む(例えばバリア)。有害なものが入ってしまったら除去する(例えば毒の消去)。有益なものを取り込む(例えば回復魔法)。そこから何歩も飛躍して、魔具が有害と判断した精神を排出して別の有益と思える精神を入れる、というところまで行ってしまったものらしい。 この魔具は、元は何だったのだろうとふと考えた。 本来は、『フタバ』の一族の先祖が祈りを込めたような品だったのではないか。一族を末永く見守ってくれるようにと。 ただしそこは、魔法に長けた一族。受け継がれ、自然と魔力が蓄積し、やがて自発的な意思すら持つようになった。魔力を自ら振るうようになった。そんなところか。 わたしと同じ目に遭わされた者もいたのだろうか。わたしと同じように本来の身体と人生を奪われ、他人に譲り渡されて、それを覆すこともできず『自分』の人生を外から見送ることしかできなかった者も。 それに比べれば、わたしは幸運なのだろう。 魔法の発動開始から完了直前までの、すべては瞬きのようなほんの短い時間。しかし集中力をかつてないほど高めていたわたしの意識は並行して様々な思考も巡らせていた。事故の瞬間にスローモーションのように物事を認識するという話に近いのか。 わたしの周囲で魔法の展開は終わりを迎えようとしていた。もう少しで入れ替えの魔法は発動を完了し、わたしとキヨヒコは元に戻る。 そうなれば魔具はわたしの胸元に戻り、わたしの一族を今後も守り続ける。 魔具の行為に元々悪意というものはなかったのだろう。 でも、そんなのは関係ない。 わたしは細い針のような魔力の一突きで、防壁を潜り抜けて魔法の発動を封じ。 同様にして、魔具の核を貫いた。 ――?! ――なぜだ!? ――どうして、ここで逆らう?! ――ああ、これは、これは致命傷ではないか! 予想通りに魔具は存在自体が魔法によるものだった。ならば発動核を破壊すれば、仕留められるのは道理。 騒がしい相手に応じた。 『殴り返さないと気が済まない。わたしが前にそう言ったのを覚えていませんか?』 ――あれはキヨヒコに向けて言ったのではなかったのか?! ――元に戻りたくないのか!? ――消える、消えてしまう……。 『キヨヒコはただ巻き込まれただけ。元凶である貴様に向けての言葉に決まっているじゃありませんか』 こいつを引きずり出すためにはこうするしかなかったけど、あの可哀相で可愛い子の心を折るなんて、本当に嫌だった。 ――お前はもう『フタバ』に戻れないのだぞ!! ――つまらぬ意地で一族の未来を台無しにするか!! 『二度も魂を弄り回されるなんて我慢ならなかったんですよ。……いや、単にそれだけではおっしゃる通りにつまらぬ意地ですね。入れ替えの魔法がもっと複雑怪奇で大量の魔力を要したら、元に戻るまではおとなしくしていたかもしれませんし』 ――お前、まさか…… 『たった今、二度目の経験に基づいて魔法の解析は済ませました。どこの馬の骨だか知らない魔具の手を煩わせるまでもありません。わたしは自分でその魔法を使って元に戻ります』 魔具は崩壊を始め、もう止まりそうにはない。 ――一族の繁栄のために尽くしただけなのに…… 『最後につまらない泣き言を聞かせてくれてありがとうございます。心を、魂を踏みにじって、何が繁栄ですか』 苛立ちが二撃目の魔力を放たせ、魔具を粉微塵にした。 『キヨヒコと深く関われるようになったことだけは礼を言いますけどね。さようなら』 * 『今、何が……?』 『魔具は壊しました。入れ替えの魔法は壊す前に習得しました』 手短に伝える。 『わたしとしては、ここでこちらからギブアップしても構いませんよ。すべきことは済ませ、必要なものは手に入れましたから』 なので、『キヨヒコ』として『フタバ』を倒したと名を上げることに興味はない。むしろ、その後のゴタゴタを考えたら一般人が国で最強の魔法使いを倒したなんてことにしない方がむしろいいのではないかと思えてくる。 けれど。 「わたくしの負けです……」 当の『フタバ』は、自ら負けを認めた。衆人環視の中、堂々とすら言える姿勢で、敗者であることを受け入れた。 それがキヨヒコなりの「立派な魔法使い」の姿なのかもしれなかった。 観衆は、怒号や歓声という反応を示さなかった。困惑のざわめきが会場を包んだ。 それはそれで、当然ではあった。試合の終盤は、『フタバ』の魔法がなぜか不発になってばかりという、事情を知らなければわけのわからない展開だったのだから。 『後始末は僕がするから、君は退場して。下手をすると危険もあるかもしれないし』 『ありがとうございます』 キヨヒコの念話を受けて、わたしは転移魔法でその場から消えた。 * * * 連絡を受けてキヨヒコと落ち合ったのは、その日の夜になってからだった。 場所は、生徒会長の執務室。入学式のあの日、一年八ヶ月ぶりに『フタバ』の中のキヨヒコに再会した場所だった。あの日のように外部からの観測を封じる結界を張る。 あれからおよそ七ヶ月。入れ替わってからは二年三ヶ月。短いようで長い、長いようで短い、そんな期間だった。 「ご説明ありがとうございます」 わたしから何が起きたかを聞くと、『フタバ』は丁重な仕草で頭を下げた。 それは、最初はたぶん『わたし』の記憶から模倣された仕草。けれど今、その振る舞いは『彼女』自身のものになっている気がした。優雅で、それでいて清楚さも漂わせる美少女の挙措。 今すぐこの子を抱きしめたい。キスしたい。それどころかもっと先までしてみたい。 わたしは『わたし』に改めて欲情してしまう。股間が硬くなる。 わたしのものでなかった二年三ヶ月の間に、より美しく可愛らしくなった『わたし』の身体。それを引き立てるのはきっとその中にいるキヨヒコ……いや、いや、これはきっと、この身体に残っていたキヨヒコの恋心にわたしが引きずられているから。でも、その恋心を二年三ヶ月育ててきたのは間違いなくわたしで。それどころか性欲までしっかり発育してしまって。 「この立場に未練がないと言ったら嘘になりますが、負けたのですからお返しいたします。これまで、すみませんでした」 「いえ。わたしにも驕りが多々ありました。先祖伝来の魔具にも無知でした。あなたの人生を翻弄してしまったことをお詫びいたします。そして、前にも言いましたが、これからもわたしを補佐してもらいたく思います」 この女の子とセックスしたい。その気持ちを押し隠しつつ――果たしてわたしは隠せているのだろうか?――、キヨヒコと言葉を交わす。 「僕で、いいの?」 珍しく、『わたし』の声でキヨヒコが少年の言葉遣いになる。僕っ娘な『フタバ』も可愛いなと思ってしまうわたしはどうしようもない。 「あなただからいいんです」 ああ、もう。これ以上話しているとどこかで歯止めが利かなくなりそう。わたしが『わたし』を本当に抱いてしまいかねない。 すべてを断ち切るように、切り上げた。 「さあ、元に戻りますよ」
Comments
ありがとうございます。そう言っていただけると、ここまで書いて、それを読んでいただけて本当によかったと改めて思います。
茶
2024-04-11 13:38:36 +0000 UTC本当に良い意味で、予想を裏切ってくれて感謝です。
hiji
2024-04-09 12:42:46 +0000 UTC