サキュモスハンター(侵攻編)【2】【エイルの苦難、イリスの侵攻】
Added 2025-03-28 15:00:00 +0000 UTCサキュモスハンター(侵攻編)【2】【エイルの苦難、イリスの侵攻】(1944文字) 【第1話より】 https://abnormal-create.fanbox.cc/posts/9614125 エイルは北正門付近の城外にいた。 部下20名、雇った密偵20名。 合計40名で北、北西、北東方面へ扇状に広がるよう偵察を命じた。 退魔樹が広がる林まで抜け、その奥の平原に異常がないか確認するという至極簡単な任務だ。 これだけに、一人あたり5000リマールを払っている。 部下にはこれはボーナスの様なものだった。 だが、エイルは嫌な予感を覚えていた。 いつもの夜。 つねの暗闇。 暗視も利くエイルにとってはそれは昼と変わらないものだった。 だが、今日の夜は何かが違う。 まるでねっとりと張り付くような、違和感が肌を舐める。 夜目の利くはずのエイルが、見通せないほどの深淵に感じた。 違和感は経験の蓄積から訪れるものだ。 経験を蓄積し、その経験と照らし合わせたときに、不一致が発生することで違和感として感じ取ることができる。 他の者はなにも思わなかったのだろう。 だが、エイルは違った。 今日、何かが起きる。 「時間まであと……」 万が一、異常があれば発光弾が打ちあがる手はずになっている。 発光弾は光石から作られるごく一般的な合図に用いられるものだ。 石に衝撃を与えると、光る性質を利用し、光石を打ちあげる火薬筒を地面に打ち付けると天空にまばゆい光を拡散させる。 強烈なものなら、退魔樹の向こう側で発せられた光が城内でも見えるほどに。 「気のせい、はないか……」 城壁の外にいるエイルならば、発光弾の明かりを見落とすはずはなかった。 「異変があれば、とにかく撃て」と言明してある。 だが、未だに一度も光が発せられることはなかった。 スッと風が頬を凪ぐ。 寒くもなく、熱くもない、湿度も落ち着いた心地がいいくらいの穏やかな夜。 だが、落ち着かない。 胸騒ぎがする。 音も、聞こえない。 「…………‼」 (音が、聞こえない‼) 風が再び凪いだ。 だが、草木の擦れる音すら聞こえなかった。 「……‼」 (まずい、早く‼発光弾を‼) エイルは、自分の持つ発光弾を地面に打ち付けようとした。 「み~つけた♡」 「ッ!!」 右手が誰かに掴まれた。 即座に左手で短剣を腰から抜き、切りつける。 そして、距離を取った。 だが、手に持った発光弾は敵に奪われてしまう。 「ふふ、こんな無粋なものを用意しているなんて♡でも、まさか気づかれているなんて、おもわなかったわ」 「……………」 (やはり声は発せられないか) 「そうね♡音は夢牢で封じさせてもらっているから♡」 (考えを…………‼) 「これで、お話しできるでしょう♡」 (……お前は誰だ) 見るからにサキュモス。 だが、人と言われても違和感がないくらいの大きさしかない。 小さいのだ。 身長が2メイルほどしかない。 サキュモスならば、3メイルが最低水準で、多くは10メイル以内に収まる。 サキュモスだろうと思われる異形の羽と角、尻尾を生やしている。 だが、サキュモスと断じることもできない。 「申し遅れました♡私、第二淫獣イリス・ラマ・メイトリューロンと申します♡」 (第二淫獣……) 聞いたことのない名称だった。 だが、その強大な淫気(オーラ)は空間を侵食するほどのものだ。 距離を取って正解だった。 「あなたのお名前は?」 (……エイル……) 「そう、エイルさん♡では、エイルさんには、私がこの上から街の様子を眺める間の椅子にでもなってもらいましょうか♡」 (……ふざ……ッ!!) 「どうしたのかしら♡」 (か、からだが……) 体が動かない。 ピクリとも動かせなくなっていた。 構えた短剣は握りしめたまま、身動きが取れない。 「うふふ、あら、ど・う・し・た・の?」 (なにをした……) 「なにもしてませんよ♡ただ、あなたは、もうわたくしの術中♡なにをしても、ム・ダ♡」 (くぅ……うごけ!!うごけぇ!!) 「無駄ですよ~♡ほら、その証拠に……イ・ケ♡」 (んぐぅ――!!ぐぅ、たえぇられ……ぐぅ――!!) 身体を震わせることもできず、その場でおねしょでもする様に精を漏らした。 「ほら、言葉一つで、もう屈伏♡うふふ♡エイルさんは、もう、逆らえませんよ」 (ぐぅ……そうかも、しれない、な……) 「あら、とても聞き分けがいいようで……」 (あぁ……時間だ……) そこで、天に向かって一筋の光が打ちあがった。 「あら」 その光はエイルが時限的に仕掛けていた発光弾だった。 都市の中央部で天に向かって打ちあがった光は、天上で皿のように波紋を描きながら広がった。 しかも特大の物だ。 都市内部を昼のように照らし出す。 「やってくれましたね♡」 (ざまぁ……) 「まぁ、この方が楽しくはありますから、わたしとしてはうれしい限りですけど……♡でも、まぁ……♡」 (くぅ……) 「悪いことするような椅子には、しっかりと、お・し・お・き、してあげないといけないわね」 微動だにできないエイルを覗き込むように、イリスが顔を近づける。 その獰猛な表情に、エイルはただ心の中で苦虫を噛み潰した。 *** 【第3話】【北西の激闘、ビーキュモスの襲来】 https://abnormal-create.fanbox.cc/posts/9614177