ショーダウンⅡ 『13:確信』
Added 2025-03-14 13:36:41 +0000 UTC13:確信 『まさか……ここに来てノーペア(役無し)になってしまうなんて……』 麗華の手はペアのないノーペア……つまりは役が一切出来ていないバラバラの手札だった。 ハートの3とハートの7、クラブの4、スペードの10、ダイヤの5…… 手札にハートが2枚あるという部分でフラッシュ(同じマークで揃える役)を狙う事も出来るが……たった1回の交換で配られる3枚のカードが全てハートであるという確率はとてつもなく低い。だったら、数字の大きいスペードの10を残して4枚交換をし“ペアが出来れば儲けもの”という考えで賭けに出るのも手だが……これも、残った大量の山札から他の10をピンポイントで引いて来る確率も高いわけではない為、結局は運任せになる事を変えられない。 しかし、10を残してワンペアだのツーペアだのを狙った方がフラッシュを狙うより確率は高くなるのは目に見えているのだからこれが最善手にも思える…… しかし麗華は、手札を4枚捨てるという行為に抵抗感があった。 手札を1枚残して他を交換するという事は、紅葉に自分の手が無役だと教えているようなものだ。 イカサマを使って勝負をしてこようとしている相手にこちらの手が弱いとバレれば、相手はイカサマすらも使わずに普通に勝ってきてしまうかもしれない。不正を使わずに勝てればそれに越したことはないと彼女なら考えそうなものだ……だから、コチラが弱いと判断すればきっとイカサマを使わない…… イカサマを看破する為に来ているのに肝心のイカサマが使われなければ見破れるモノも見破れなくなってしまう。相手には必ずイカサマを使って貰わないと困るのだ……だから、間違っても“自分の手が弱い”という事実を悟られる訳にはいかない……と麗華は考えているから、1枚だけを残して賭けに出るという行為には慎重になっていた。 『ここは……相手へ牽制も兼ねて2枚残すというのが逆に最善手だと思いますが……しかし、そうなれば勝負する為の役が出来るかどうかも怪しい……。最悪、降りるという選択肢も考慮に入れて交換した方が良いかもしれませんわね……』 麗華は諦め半分の気持ちでカードホルダーからハート以外のカードを交換用に抜き出そうと手を掛ける。しかしその時……カードに触れた瞬間、ドクンと心音が高鳴り一瞬世界が白黒に見え時が止まる様な感覚を覚えた。 その感覚は1秒にも満たない時間ですぐに戻ったが、麗華はその感覚を何かしらの警告を受けたのではないかと確信してしまう。 『な、なんですの? 今の感覚……。一瞬……何か……寒気の様なモノが走ったような……』 嫌な予感……虫の知らせ……不穏な予兆……その様なモノが麗華の背筋に走った。 普段ギャンブルをする時にこのような感覚を味わう事など無かったが……どうやらこの500万という高額のギャンブルを行うにあたって感覚が研ぎ澄まされているようにも思える。これ以上負けたくないと怯える精神と、イカサマを見破らないといけないと焦る精神……それがせめぎ合ってこの交換に待ったをかけてくれたのではないか? と麗華は思いなおす。 『いくら“前座”であるとは言え……勝負を諦めるような心持ちではいけないと……わたくしのギャンブラー魂が警告して下さったのかしら?』 『だとするなら……まぁ、そうですわね……折角ですので少し考えを整理してみましょうか……』 その不可思議な感覚に従って麗華は冷静になってもう一度考えを巡らせてみる事とした。 自分は紅葉のイカサマを“引き出す”役回りだと納得しているが、それは勝負を諦める理由にはならない。出来る事なら“本番”の前に負けた分のお金を取り戻すくらいはしておいても良い筈だ…… イカサマを見破るのと同時進行で自分の勝負に勝っておいても何ら問題はない筈なのだから…… 『……これまで紅葉さんを見てきて……わたくしが怪しいと睨んでいる点が少なくとも3つありますわ……』 『1つ目は、このいかにもわたくし贔屓になっているポーカーのルール……。彼女はイカサマを疑わせない為、なんて仰っていましたけれど……カードを混ぜる事も配る事も容認するなんてちょっと過剰だとも思えてしまう。これには“わたくしを優遇する事で大事な何かを隠しているのではないか?”という胡散臭さを感じずにはいられません……』 『2つ目は……500万という大金の掛かった勝負に紅葉さんは動揺一つせず勝負を淡々とこなしているという点。まぁ、普通……ディーラーは手の内を悟られないよう表情を隠すものでしょうけど、紅葉さんの場合は大金が掛かった勝負であるにもかかわらず冷や汗一つかかず……眉一つ動かさず、笑みをニンマリ浮かべるだけ。まるで“勝つ事が分かっていた”かのように感情が平淡で抑揚がない……それが不気味であり怪しいと思う2点目ですわね……』 『3つ目は……わたくしや紅葉さんがカードを配る時、紅葉さんは必ず“わたくしの顔”に視線を向けて何かを観察しているという点。それは最初から怪しいと思って度々抜き打ちで後ろを振り返ったりして確認はしましたが……背後には通路があるだけで誰も居ないし何もない。抜き打ちで振り返っていますから、誰かが居たり床からモニターや鏡がこっそり現れていたらすぐに見つかると思えますが……その兆候も跡もない……。じゃあ彼女はなぜわたくしの顔を見てゲームを進めているのか? ただの癖なのか? それともそこに秘密があるのか……? これが一番興味を惹かれる謎ですわね……』 3つの気になる点を頭の中で浮かべ整理すると……やはり“自分は負けるべくして負けさせられているのではないか?”という疑念を改めて麗華は持つ事となる。 それは今回のドローポーカー勝負だけの事ではない……先日のルーレット勝負での連敗も怪しさの一端を感じずにはいられない。 麗華は一度たりとも紅葉に勝てていない。無茶な賭け方をして負けたのであれば文句言える筋合いではないが、ポーカー勝負もルーレットも殆ど5割がたは勝てるはずの勝負を行っている。そんな勝負をしているのに一度も勝てていないというのはおかしな話なのだ。 いくら麗華のギャンブル運が悪いとは言え、偶然にしては出来過ぎている。これは、何かしらの力で捻じ伏せられていると疑いを持つに足る不自然さであると麗華も考えている。 『1回目の戦いの時も、2回目の戦いの時も……わたくしには役が最初から入っていましたわ。スリーカードとツーペア……どちらも初手に入る手としては出来すぎなくらい良い手だった……』 麗華は先の対戦の手札を思い出し、その役に対する自分の振る舞いについても思い返す。 『わたくしはこのラッキーな展開に……ある意味“セオリー通り”のカード交換を行った訳ですが……結果的にはその手以上の強い役にはならず……どちらも負けてしまった……』 ポーカーにおいて手札の交換は、役が出来る確率の高いカードを残して他を交換するのがセオリー(常識)である。 ペアがあればそのペアを残して交換するし、マークが4つ揃っていればマークを揃える為の交換を行う……それが最も勝率が高くなるセオリーであると皆信じて行動している。麗華はそのセオリーに従うように交換札を選んだが……しかし、結果はどちらも負けを喫している。 初手ではかなり有利だと思われた展開だった筈なのに……である。 『セオリー通りにやって今まで負けてきたのですから……じゃあ、セオリー通りに振る舞わなければ……どうなるのかしら?』 セオリー通りに振る舞うということは最善の手を打つ事に他ならないが、それを行わないということはある意味勝負を諦めることに繋がる。麗華はそれを理解したうえで考えを巡らせていく。 『今までセオリー通りに振る舞ってイカサマを見抜けなかったのですから、ここは敢えて……セオリー外の行動を取って波乱を起こしてみるのも一興かもしれませんわ……』 麗華が今行おうとしていた“ペアを残しているように偽装してカードを捨てる”という行動もポーカーの心理戦においてはセオリーであると言えなくもない。相手は機械であり人間なのだから、心理的な揺さぶりをかける事は相手にプレッシャーをかける効果も期待できる。 そんな心理戦を麗華は敢えて放棄してカードを変えてみようと考えている。 セオリー通り交換して何も見出せないのであれば、そのセオリーを無視すれば何かしら負ける運命に変化が現れるかもしれない……と期待して。 「ちょっとぉ? 考え込むのはいいけど……その3枚……こっちに渡してくんない? 交換する為に抜いたんでしょ?」 紅葉は、カードを3枚抜いたまま考え込んでしまった麗華の姿を見てじれったそうに腕組みをして睨み目を向ける。 麗華はその言葉にピクリと反応を返し、自分の頬を手でパンと挟んで気合を入れ直す。 そして、カードホルダーに差し込んでいた残りのカードを全て抜き去って……紅葉の前に叩きつけた。 「わたくしは……5枚全部を……チェンジさせて頂きますわ!」 その宣言通りに全てのカードをテーブルに置き終えると、麗華は紅葉の表情の変化を観察しようと顔に視線を向ける。それに対し紅葉は、多少の驚く表情を作りはしたが……すぐにディーラーらしい涼しげな表情に戻って呆れるような息を零しながら自分の手札から3枚のカードを抜いて麗華の札の上に静かに乗せた。 「へぇ? 中途半端に残さずに運任せで勝負しようと考えた訳ね? 中々潔いじゃない……」 「えぇ、この手札じゃ大した役に“なる”気がしませんでしたので……」 麗華の強調された言葉に紅葉はピクリと眉を反応させる。 「……そ? でも良いの? これじゃあ……ポーカーの醍醐味である“手役を自分で作る”って部分を放棄する事になるけど……」 「構いません。どうせ、わたくしが考えて役を作ろうと運任せに役を作ろうと同じなのでしょうから……」 「フフ♥ そうかしら? 私から見ても麗華ちゃんは運が“悪い”部類の人間だと思うのだけど? そんな体で運任せにして大丈夫ぅ?」 「本当に“運が悪いだけ”だというのなら……諦めもつきます……」 「クフフフ……まぁ~だ、疑ってるんだ? 私がイカサマをしてるって……」 「勿論疑ってますよ? ずっと……」 「困った人ね……。こんなにもイカサマの入る余地のない場を提供してあげているというのに……」 「いえ、それがそもそも怪しいのです! 自らこんな“私は潔白です”と言いたげなルールを提案してきてますが……結局裏では自分に有利なルールに仕立て上げられているのではございませんの?」 「ハッ! 何を根拠にそんな暴論が言えるのかしら? こっちとら、貴女が対戦しやすいよう手を差し伸べてルール変更をしてあげたって言うのに……」 「もしも本当にその様にお考えでしたら……ルーレット勝負の時にも同じようにルール変更をして下さっていても良かったじゃありませんか!」 「……ぐっ!?」 「それが出来なかったのは……こういう事じゃありませんの? いきなりイカサマだと告発されてルールを用意する準備が出来なかった……もしくは、ルーレットではそもそもルールを変更しても意味が無いと悟っていた……そんな感じでしょう?」 「ち、違うわよ! あの時はお客さんが周りにいたから余計な事は出来なかっただけ! 一般のお客さんがいるのにいきなり貴女にだけ有利なルールに変更したら……ただの贔屓だと思われるでしょうがっ!」 「だから、今日はお客様が来る前の時間にわたくし達を呼び出したのですわね? 人の目が無い時にしか特殊なルールは適用できないから今の時間にした……と?」 「そ、そうよ! そうでないと……不公平じゃない! “あんた”にだけルール変更するっていうのはっ!!」 麗華は紅葉の言葉遣いが崩れるのを聞き逃さなかった。 今まで“麗華ちゃん”や“貴女”と表現していた対戦相手の事を、初めて“あんた”と強い語気で彼女は言い零してしまっていた。 これは心の動揺の表われであると麗華はすぐに察した。今まで余裕たっぷりな態度を崩さなかった彼女が、麗華の言葉に思わず感情を乱されあのような言葉遣いがつい出てしまったのだと彼女は確信を得た。 その事からも……やはり紅葉は何かしらのイカサマを仕込んでいたのだと推察が出来る。 それが……このお客さんが居ないからこそ出来る“ルール変更”にヒントがあるのだと麗華は考え至る。 一見、麗華に有利に思えるこのルールだが……恐らく紅葉がイカサマを行う為には、このルール変更が必要だったのだろう。 特にどのルールの部分が必要であるかはまだ分からないが、あの動揺から察するにイカサマの為に必要なタネがルールの中に織り込まれている事は十分疑うに値する。 後はそのイカサマのタネをしっかり見つけていかなくてはならないのだが…… 「そんなに言うなら、ルール変更は無しにしても良いのよ? 今後一切あんたの要求は無視して淡々と勝負してやっても……」 そんな考えを巡らせている麗華に、紅葉があからさまな怒り顔を向けてその様に言ってくる。 麗華的にはその言葉に従っても良いと思いはしたが…… 「いいえ、今のままで構いませんわ。ほら、カードの交換……して下さいまし?」 と、ルールの差し戻しは敢えて行わず現行のルールのままこのゲームは進めようと促した。 「くっ! 何を偉そうに! こっちが温情をかけてやってるってのに……調子に乗りやがって!」 紅葉は言葉が感情的になっている事を自覚しているがその言葉遣いを戻そうとはしない。今までの立ち振る舞いが猫を被っていたのだと主張するように荒い言葉遣いを吐き出してしまう。 『くそ! 何……心乱してんだよ私っ! あの馬鹿はまだコッチのアレに気付いてないんだ……頭冷やさないと駄目じゃないっ!』 紅葉は自分にそう言い聞かせ深く大きな息を長く吐く。そして力の入っていた怒り顔を少しずつ緩め、元の余裕ある表情へと戻していく。 『フン! あいつにあの仕掛けは分かりっこない。なにせ……あいつの視界にはアレは映っていないんだもの。だから絶対バレっこない! それに……何かを察したとしても防ぎようもない! あいつがこれ以上口出しできないよう平等を盾にしてルールを定めてやったんだ……このルールである以上……私に負けは無いわ!』 紅葉は表情を戻すとクスリと笑みを零して、カードシューターから交換用のカードを引き抜く。 そのカードをまずは自分の方へと配り、2枚目を抜く…… その動きを麗華は見逃すまいと紅葉の手つきに視線を送る。 『何かを行っているとしたら、この“交換用のカードを配っている時”が一番怪しいですわ! 山札はわたくしが混ぜましたし、最初の手札を配るのもわたくしがランダムに配っているのですから……』 っと、麗華はその時ふと違和感に気付く。 『あ、れ? わたくし……確かにランダムに配っていますが……そう言えば、紅葉さんも交換札をランダムに配っていた様な……』 その事に気付いた時、麗華は強烈な4つ目の違和感を覚える事となる。 『わたくしがそうするのは当然ですが……紅葉さんはランダムに配る必要……あるのかしら?』 麗華の場合は“山札に細工がされているかもしれない”という理由から手札を配る時にランダムな順番でカードを配っていた。自分が山札も混ぜさせて貰っているのだから、別にランダムに配る必要は無いと言えば無いのだが……山札に何もなくともシューターの中に何か細工がされているかもという疑念も少しはある。だから出来るだけランダムになるよう配っていたのだ。 しかし……紅葉がそれをする必要はない。 ディーラーは順番通りにカードを配っても問題ない筈なのだが……それなのに紅葉は麗華の配り方に倣うようにバラバラにカードを配っている。 自分の所に連続で配ったかと思えば麗華と自分の手元に交互に配ったり……麗華の方に偏る様に配ったり…… その配り方は麗華の配り方を真似る様に配っているのだと思えていた為“自分もランダムに配って見せる事で潔白を証明しようとしている”と思い込み、気にも留めていなかったが…… 『……最初は自分(紅葉)、次も自分、その次はわたくしで、さらに次はまた自分……そして残りの配り札は札はわたくしへ……』 やはり今回も配り方には偏りが見られた。一見ランダムに配っているようにも見えるが……見方を変えれば“カードを選別して”配っているようにも見える。 もしかしたら……紅葉はカードが裏返しでも数字やマークが分かっているのではないか? もしくはカードの微妙な触り心地でそれらの情報を得ているのではないか? 麗華はその紅葉の行動に改めて疑念を向ける。 カードの数字やマークが事前に分かっていれば……配る時に自分に有利なカードを配る事が出来る。もしもそういうタネが仕込んでいるのであれば、自分に配られたこのカードも…… 麗華は配られたカードをカードホルダーに差し込んで自分の手役をチェックする。すると、今までの疑念が一気に吹き飛んでしまう程の役が出来ている事に驚かされてしまう。 『ハートのA、ダイヤのA、スペードの……Aっ!? な、ス、スリーカード?? 5枚全部交換したのに……なぜこんな手が!?』 5枚捨てた内の3枚がAのカードでスリーカードという強い役が出来ていた。残りのカードはダイヤのJとクラブの9が配られており役には絡んでいないが、しかし5枚全部のカードを交換してスリーカードが完成しているのは普通であれば強運以外のなにものでもない。 しかもスリーカードの中で最も強い“A”のスリーカードだ……同じ役で戦ったとしても負ける事が無いかなり有利な手である。 更に言えば……紅葉は2枚のカードを手札に残して3枚のカードを交換していた。 2枚残したという事はこれはペアだったのだろう想像できる。 で、あるならセオリー通りにいくとスリーカードを狙って交換していたと考えるのが当然の流れだ。なにせ……フラッシュやストレートを狙うには3枚交換は不利過ぎる選択になるからだ…… もしもセオリー通りスリーカードを狙って交換したのなら……9割がた勝ち見込める…… 相手が3枚交換して仮にスリーカードを作っていたとしてもAで負ける事はない……AはKよりも更に強い数字なのだから負けようがない。 『ようやく……わたくしに初勝利を譲ってくれる気になったのかしら?』 麗華は思わず、先程の疑念を何処かへ飛ばしてしまう程の歓喜に包まれていた。 イカサマ云々を暴く為には資金もいる。その資金が得られる可能性が高いと確信し心の重みが軽くなるのを感じた。 「んで? どうすんの? 勝負……するの?」 麗華の隠せない喜び様を見て紅葉は不機嫌そうに尋ねて来る。 それに対して麗華は勿論迷わず…… 「このカードで勝負致しますわ!」 と、自信満々に500万をテーブルの中央へ押し出す。 自分の手がこの勝負は勝ちであると……疑わなかったのだから……。 「OK。それじゃあ……役を見せ合いましょう?」 紅葉はその様に言ってカードホルダーの縁に手を掛ける。麗華も同じように縁に手を掛けてホルダーを反転させようとする……が…… そこで再び寒気が走る。 勝ちを確信しているのに……それにそぐわない“嫌な予感”が背中にゾワリと走り抜ける。 普通の勝負なら……これは9割勝ちが見込める展開だ。負け額を取り戻す絶好のチャンスだと言える。 でも、今行っているゲームは……イカサマの可能性がある戦いでもあるのだ……何か仕掛けがあってもおかしくはない。 今一度それを思い返した時、麗華はゴクリと唾を呑み込んだ…… この手で負けるようなら……それは…… っと、頭の中で言葉を浮かべて……ホルダーを引っ繰り返し、手役を紅葉に見せる…… 紅葉も同時に手役を麗華に見える様に反転させ……そして、彼女に見せつける…… 一瞬、そのカードを見た時麗華は喜びの声を上げそうになった。 嫌な予感など杞憂だったと……思い込みそうになった。 紅葉の手札は……2のスリーカード……!? 麗華の役はAのスリーカード……これで勝ちは確定……と思った矢先…… 「ッっ!? なっ、そんな馬鹿な! ふ、フルハウス……ですって!?」 紅葉の役が……実はAのスリーカードよりも更に強い“フルハウス”という役であったことに気付かされる。 3枚の“2”と2枚の“Q”…… スリーカードとワンペアを組み合わせた役……“フルハウス”を紅葉は作っていたのである。 9割がた勝てるだろうと踏んで挑んだ勝負だったのに……また負けを喫する事になるとは夢にも思わなかった。麗華はしばしテーブルに両手をつき、顔を項垂れさせてワナワナと肩を震わせる。 それを見た紅葉は“してやったり”といった顔をして麗華を見下すように高笑いを零す。 麗華はその高笑いを聞いて確信を持った。 今の勝負の瞬間にも……イカサマが行われていたのだと……