From the inside -1-
Added 2024-06-29 09:26:17 +0000 UTC60年前。人間界に亀裂が入り、突如魔界への門が現れた。人間たちは恐怖を感じながらも調査隊を組んで魔界へと足を踏み入れた。 それから60年後の現在。魔界の扉前は賑わっていた。魔界には沢山の素材や魔物が豊富に存在することが調査隊によって判明したのだ。すると冒険者がこぞって魔界へと進出するようになった。魔界は魔界ダンジョンと呼ばれ、人間たちの新たな資源確保の地となった。 そんな魔界で一際高くそびえ立つ塔。そこの最上階には魔王と呼ばれる存在が君臨していた。魔王の部屋は広く、奥には豪華な装飾で彩られた椅子が鎮座している。その椅子から魔王が重い腰を上げた。 「さてと、借りはしっかり返さないとな…」 それだけ呟くと怪しく笑い、魔王は実験体として死体となった人間へと化けてどこかへと転移した。 魔王が転移した場所は魔王がいた塔の麓。そこには現在、塔を攻略しようと冒険者たちが集まっていた。この塔は人間達の間ではラストタワーと呼ばれ、ここの最上階に魔族の長である、魔王がいると人間たちの間で言われている。この塔は冒険者たちによってもう既に3分の2ほど攻略されており、生き残りの魔族もあとは幹部と魔王だけと推測されていた。実際、人間たちの予想は当たっていて、生き残りの魔族は魔王と生き残った幹部たちだけだった。魔王はこのままでは魔界が人間によって征服されてしまうと思い、塔に乗り込んだ人間を部下たちに任せて、自分は起死回生をかけた魔術の開発に集中した。人間たちの死体をかき集めて研究し、そして魔王は術の開発に成功した。その実験体となる人間の元へ魔王は接近する。 「あの〜すみません。今からこの塔の攻略に行きますか?」 魔王が冒険者たちに話しかけると冒険者たちが一斉に魔王を視界に捉える。 「ん?誰だ?お前」 「こんなやついたか?」 「でもなんか見た事あるぜ」 「思い出した!確かお前Cランクのセシルだ」 「で、そのCランクがなんの用だ?」 「あの〜出来れば荷物持ちでも何でもいいんで連れて行って欲しいなと…」 「おい、どうする?Cランクっつたらこの塔に挑戦する最低ランクの資格はあるな」 「だが、上には行けねぇ」 「お前パーティーメンバーはどうした?」 「手前のダンジョンではぐれちゃって」 「まあここまで来たなら1人で帰るとそら危ねぇな。前に進んでここに来た方がまだ安全か」 魔王はどうしようかと思案する。ここには上位の冒険者11人がいる。魔王1人で勝てるだろうが、苦戦はするだろう。仕方ないと攻撃体勢に入ろうとすると。 「俺たちの所いいぜ」 そう声を上げたのはAランクパーティー赤の風だ。 「いいのかよ?あんたら魔王目指して来たんじゃないのかよ?」 「最近メンバー抜けたばっかで今は見ての通り3人なんだ。上を目指すなら他のパーティーと合同か、もっと戦力を揃えて目指すよ。今日はちょっと下層で小銭を稼ぎに来ただけだから。まあ、足でまといにならないならいいかなって」 「あ、ありがとうございます!是非お願いします!」 魔王は赤の風のリーダーであるシップの言葉に頭を下げる。だが下を向くその口角は酷く歪んでいた。魔王はシップから魔物が出た時のパーティーの連携や自分が取る行動などを打ち合わせして塔内での行動を確認する。打ち合わせが終わる頃には他のパーティーは既に塔内へと入っており、赤の風と魔王のみが残っていた。 「って事でよろしく」 「はいっ!こちらこそよろしくお願いします!」 「もう後は俺たちだけだな。まあ今回は素材集めだけだから気張らずに行こう」 そして魔王たちも塔内へと入っていった。 探索は順調に進んで行く。赤の風が主に魔物と戦闘をし、魔王はパーティーの荷物を持ちサポートに徹していた。赤の風はさすがA級パーティーというべきか。下層の魔物では全く苦戦することなく、戦闘というよりも作業をするかのように魔物を倒していった。そしね、あっという間に10階のボス部屋へとたどり着いた。 「あれ?モンスターいないのか?」 「先に行ったヤツらが倒してまだ出てきてないとか?」 赤の風が言う通り、本来なら10階にはボスとなるモンスターがいる。だが、今回は魔王がモンスターは出ないよう指示していた。モンスターも出ないとの事で赤の風は一旦そこで小休憩をすることになった。 そしてこの部屋で魔王は遂に動き出す。 魔王はそっと地面に触れて魔力を流し込む。すると突如地面は魔法陣が描かれ禍々しく光りだし、赤の風3人の体の自由を奪った。 「なんだこれは!?」 「ボスの仕業かっ」 「くそっ、体が動かない」 「まさかAランクがこんな簡単に釣れるとは思ってもみなかったよ」 魔王はその言葉を吐きながら本来の姿へと戻る。そしてその姿と禍々しい魔力の圧を感じた3人は驚きの表情を浮かべた。 「まさか、魔王…」 「さすがAランク。俺の魔力を感じられるか。だが、なぜ俺が魔王と?幹部の一人かも知れないだろ?」 「幹部のやつは一度討伐したことがあるから知ってんだよ。幹部の奴もヤバかったがそれよりも明らかに違う。そんな存在、魔王しかいねぇからな」 「なるほど、俺の優秀な部下を倒したのか。これは期待出来そうだ」 「期待?俺たちをどうするつもりだ。殺るならさっさと殺れ」 「せっかく準備して捕まえたのにそんな事する訳ないだろ?光栄に思え。お前たちが栄えある第1号だ」 魔王は可視化出来るほどの魔力を手に込め黒いオーラを纏わせながらシップの下へ近づいた。 「立て」 「クソっ…体が勝手に…いったい、なっ!?」 シップは魔王の行動に思わず言葉を無くす。魔力を纏わせた魔王の手がシップの胸にズブズブとしずんでいったのだ。そして不思議な事にそこから血が出ることもシップ自身痛みを感じている様子もない。だが直ぐにシップの様子に変化が起きる。 「くはッ…!」 魔王が直に心臓を掴むとシップはうねりをあげる。苦悶の表情を浮かべるシップに魔王はドクンドクンと動く心臓に更に力を入れて握り、手に纏わせた魔力を心臓に流し込んでいく。パーティーメンバーであるアルスとマインも叫ぶが動けないため、ただその光景を眺めるしか出来なかった。 「苦しいのは一瞬だけだ。後に待つのはただの人間では味わえぬ素晴らしい体験だ」 魔王の魔力によってシップの心臓は禍々しい形へと変化していく。無数の目玉が心臓から生まれ、まるで小さな魔物のような姿へと変貌した。 「さあ、新たな命に歓喜しろ。幹部を倒したお前なら、有能な魔人になるだろう」 魔王は苦しむシップの耳元でそう囁いた後、胸から手を抜いた。 「があッ…アッ…アッ…」 魔王の手によって変えられた心臓は人間の血を吸い取り、全身に魔の血を巡らせていく。それに伴いシップの容姿も変化していく。耳が尖り、目は白目の部分が真っ赤に染まる。そしてシップ自身も魔族特有の禍々しい魔力を纏い出すと苦悶の表情から一転、歪んだ笑みを浮かべて始めた。魔人として生まれ変わったシップは自身の変化が落ち着くと魔王に跪いた。 「恩寵を頂き誠にありがとうございます。これからは魔人として魔王様に忠誠を誓います」 「立て」 「はっ」 「次はアイツらだ。魔人仲間が増えるのは嬉しいか?」 魔王は試すように未だに動けないアルスとマインを指さしながらシップに問う。 「はい、嬉しいです。是非アイツらも魔人へと。元仲間として恩情を頂ければ」 「そうかそうか。では、気分が変わって今から殺せと命令すれば従えるか」 「もちろんです。元仲間とはいえ人間。俺にとって優先されるべきは魔王様の命令です」 魔王は満足そうに笑みを浮かべるとアルスの元へと近づいていく。 「心配するな。優秀な素体をみすみす捨てるなんて勿体ない。ちゃんとまた仲間にしてやる」 「ありがとうございます」 シップは魔王の言葉に頭を下げ、頬を赤く染めるがアルスは顔を青白く染めて怯えた表情を浮かべていた。魔王はシップの時と同じようにアルス、そしてマインを魔人へと変えていった。