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【小説】特殊性壁怪人軍団「フェティシズム・アーク」 第一話 正義のヒーローVS入れ替え怪人

20XX年、太平洋上空に突如として巨大な飛行戦艦が出現した。

『フェティシズム・アーク』と名乗るその戦艦は、恐ろしい怪人たちを全世界へと解き放った。

“特殊性壁怪人”。

偏った特殊な行動原理を持つ怪人たちのことを人々はそう呼称した。

世界各地に現れた怪人たちは、己の生まれ持った行動原理に忠実に動き、次々と人間たちを襲い始めた。

あわや人類が怪人の手によって支配されてしまうかと思われたそのとき、まるで怪人の出現に呼応するように、世界各地に特殊な力を持った人間が現れ始めた。

彼らは人智を超えた力を持って怪人たちを撃退していき、世界中の人々からはヒーローとして讃えられた。

しかし、怪人がやられる度に戦艦から新しい怪人が派遣され、ヒーローと怪人の戦いが終わることはなかった。

『フェティシズム・アーク』の出現から一年が経過した今も、各地ではヒーローと怪人の戦いが続いている。


果たして、ヒーローは人類を守り切ることができるのか。

それとも、怪人に支配されてしまうのか。

この世界の未来がどうなるのか、今はまだ誰も知らない。




────────




──A市。

この街では、三人組の正義のヒーローが平和を守っていた。

とあるビルの一室に、三人の少女が集まる。


「パトロール行ってきたよ。今日も特に異常なし!」


赤いポニーテールの活発な少女、赤澤一香。


「気を抜いては駄目よ。怪人はいつ現れるかわからないんだから」


青い長髪のクールな少女、青柳仁乃。


「でも、平和なうちにしっかり休むのも大事だよ? ほら、お菓子あるよ〜」


黄色いショートカットの朗らかな少女、黄瀬蜜葉。

彼女たちは一見普通の少女たちだが、その正体は特殊な力に目覚めた正義のヒーローなのだ。


「んーっ! あまーい! あたしシュークリーム大好き!」

「わたしも好き〜。ねえ、仁乃ちゃんも食べる?」

「結構よ。というか二人とも! 私の話聞いてたの!? 気を抜かないでって言ってるの! 前回の怪人が現れてから一週間が経つし、そろそろ次の怪人が現れる頃──」


そのとき、突如警報が鳴り響いた。

三人は瞬時に反応して真剣な顔つきに変わる。

すると部屋のドアが開き、威厳を感じさせる雰囲気の女性が入ってきた。

ソウレンジャーを統括し指揮する白瀬司令だ。


「三人とも、事件だ!」

「司令! 場所は!?」


三人は司令から詳細を確認すると一斉に駆け出す。

その表情は先ほどまでの談笑に興じる少女のものではなく、街の平和を守るために戦う正義のヒーローのものだった。


一方その頃、市街地では行き交う人々の悲鳴が響き渡っていた。

人々に襲い掛かり破壊行為を行う、頭のてっぺんからつま先まで全身黒タイツの無個性な男たち。

彼らはフェティシズム・アークの戦闘員だ。

胸にはそれぞれ、23、45、71などの数字が記載されており、それがそのままこの戦闘員たちの名前となっている。


「イイィーーーッ!」


意味のない奇声を発しながら暴れ回る戦闘員たちから逃れようと、市民たちはパニックを起こしながら駆けずり回っていた。

騒ぎの中心である広場の前には、異形の怪人が佇んでいる。

身体の半分が機械でできており、胸の部分にはモニターのようなものがついている。

背中からは触手のように赤と青の二本のケーブルが飛び出し、うねりながら人々に襲いかかっている。


「イーレイレイレ! オレ様の名前はオールチェンジャー! この『入れ替えケーブル』で、なにもかも全部入れ替えてやるイレー!」


オールチェンジャーと名乗った怪人は背中のケーブルを伸ばすと、逃げ惑う男の子が持っていたコーラのペットボトルと、尻餅をついて震えている主婦の持っていた醤油の入ったボトルをそれぞれのケーブルで突き刺した。

すると、二つのボトルの中身が徐々に入れ替わっていく。


「オマエたちのコーラと醤油を入れ替えてやったイレ! さあ、コーラの代わりに醤油を飲むがいいイレー!」

「うわぁん! 僕のコーラがぁ! しょっぱくてこんなの飲めないよぉ!」


男の子が泣き喚くのを見てオールチェンジャーは高笑いをする。


「イーレイレイレ! さあさあ、どんどん入れ替えてやるイレー!」

「やめなさいっ!」


するとそこに、三人の少女が現れた。

一香、仁乃、蜜葉の三人は、腕についたリストバンドを掲げながら叫ぶ。


「「「ソウルチェンジ!」」」


その瞬間、三人の身体が眩い光を放ち、それぞれ赤、青、黄のヒーロースーツが身体を覆っていく。


「ソウレッド!」

「ソウブルー!」

「ソウイエロー!」

「「「清魂戦隊……ソウレンジャー!」」」


三人は名乗りをあげるとオールチェンジャーに向き合った。


「これ以上の悪さはあたしたちが許さないから!」

「オマエたちがソウレンジャーか。話には聞いてるイレ。我々の邪魔をするつもりイレ?」

「当たり前じゃない。私たちは街の平和を守る存在よ。まあ、貴方は怪人の割にやっていることがスケールの小さい子供の悪戯のようだけど」

「なんだと〜? オマエ、ムカつくイレ。おい、戦闘員ども! アイツらをやっちまうイレ!」

「イイィーーーッ!」

「二人とも! 来るよ!」


全身黒タイツの戦闘員たちが三人に襲いかかる。

しかし、三人は迫り来る戦闘員たちを圧倒的な力で返り討ちにしていく。


「あたしたちが今更あんたたちみたいなのに手こずると思ってるの? くらえっ! 『レッドソウルパーンチ』!」


レッドの拳が炎に包まれ、前に突き出された瞬間、周りにいた戦闘員たちが一斉に吹き飛ばされた。


「舐めないでほしいわね。『ブルーソウルアロー』!」


ブルーが弓を構えるような仕草をすると、青い光が弓矢のような形で現れ、放たれた光の矢が一直線に戦闘員たちを貫いていく。


「おいたはめっ!だよ? 『イエローソウルシャワー』!」


イエローが手を掲げると、辺り一体にキラキラとした星が降り注ぎ、周りの戦闘員たちが次々に吹き飛んでいく。


「くぅ……ソウレンジャー、なかなかやるイレ!」

「さあ、次は貴方の番よ。貴方のその物を入れ替えるだけの力で私たちに勝てるかしら?」


ブルーがオールチェンジャーの前に一歩踏み出る。

他の二人も、周りで戦いを見守る市民たちも、ソウレンジャーの勝利を疑わなかった。

しかし、その瞬間オールチェンジャーは口元を歪ませニヤリと笑った。


「……く、くく……油断したイレ!」

「何……? えっ!?」


すると、ブルーの背後に倒れていた戦闘員たちが突然ガバッと起き上がり、背後からブルーにしがみついた。

ブルーは羽交い締めにされ、身動きが取れない。


「は、離しなさいっ! このっ!」

「ブルー!? 助けないと……!」

「イイィーーーッ!」

「ちょっと、邪魔しないで!」


レッドとイエローはブルーの元に向かおうとしたものの、大量の戦闘員たちに阻まれてしまう。

その間にオールチェンジャーがブルーに近づいていく。


「イーレイレイレ! この瞬間を待っていたイレ! オレ様の本当の力を見せてやるイレ!」

「な、何をするつもり……!?」


ブルーがオールチェンジャーを睨みつける。

気丈に振る舞っているものの、その顔には不安の色が滲んでいた。

オールチェンジャーは、背中の青いケーブルを伸ばすと、倒れている戦闘員の一人に突き刺した。

胸に『56』という数字が記載されている、戦闘員56号だ。

そして、もう一本の赤いケーブルをブルーに向かって伸ばす。


「さあ、『オマエたち』を入れ替えてやるイレ!」

「私、たち……? まさか、うぐッ!?」


赤いケーブルが突き刺さった瞬間、ブルーの身体がビクッと震えた。

同様にケーブルが刺さった状態で倒れ込んでいる戦闘員の身体もビクンッと跳ねる。


「ブルー! 大丈夫!?」

「…………」


レッドが離れた場所からブルーに問いかけるが、ブルーは反応しない。

目から光が消え、虚ろな表情で佇むばかりだった。

ブルーの身体からは青い綺麗な光がケーブルを通ってオールチェンジャーの身体へ流れ込んでいくのが見える。

一方もう片方のケーブルが刺さった戦闘員からは、ドス黒い穢らわしい光がケーブルの中を移動している。

オールチェンジャーの胸のモニターには『入れ替え中……』という文字と『25%』という数字が表示されている。

数字は徐々に増えていき、あっという間に『50%』まで進んでしまった。

すると、青い光がオールチェンジャーの身体を通過してそのまま戦闘員の方へと流れ込んでいき、黒い光はブルーの方へと流れ込んでいく。

ブルーと戦闘員の身体はピクピクッと痙攣するように震え、その様子はまるで何かを拒絶する最後の抵抗のようにも見えた。

数字は『95%』に達し、光がそれぞれの身体に完全に入っていったその瞬間、二人の身体はビクンッと大きく震えた。

ピーッという音と共に数字は『100%』になり、胸のモニターに表示された文字は『入れ替え完了』という文字に変わった。


「イーレイレイレ! 成功したイレ!」


オールチェンジャーは高笑いするとケーブルを引き抜いた。

ブルーはゆらりと身体を揺らし、俯きながらその場に佇んでいる。


「ブルー! しっかりして!」


周りの戦闘員たちを蹴散らしたイエローがブルーに駆け寄る。

すると次の瞬間、ブルーはピンと姿勢を正して直立すると、手を上げながら大きく叫んだ。


「イイィーーーッ!」

「…………え?」


イエローは突然のことに理解が及ばず、目を丸くしながらブルーのことを見つめていた。

一方ブルーはそんなイエローを気にも留めず、胸を張って立ち尽くしている。

あまりのことにレッドも混乱しながら声を上げる。


「ぶ、ブルー!? どうしちゃったの!? あんた、ブルーに何したの!?」

「イーレイレイレ! オレ様の力でソイツと戦闘員の『魂』を入れ替えてやったイレ! オマエたちの仲間は、今はこっちイレ!」


オールチェンジャーが指を刺した先には、自分の顔を触りながら震えている戦闘員56号がいた。


「イ、イィー!? イィーーッ!?」


戦闘員56号は何かを喋ろうとしている様子だったが、口から出るのは意味のない奇声だけだった。

レッドとイエローはそんな戦闘員56号の様子を絶句しながら見ている。


「さあ、戦闘員56号! その身体を使ってアイツも捕まえるイレ!」

「イイィーーーッ!」


オールチェンジャーの命令を受けたブルーは、目の前にいるイエローに向かって襲いかかった。

いつもの凛とした清廉な振る舞いはそこにはなく、奇声を発しながら滑稽な動きでイエローに掴みかかろうとする。


「や、やめてブルー! いや、今はブルーじゃないけど……でも、ブルーの身体を攻撃なんてできないよ……!」

「イイィーーーッ!」


戸惑いながらブルーの攻撃を受けるイエロー。

今は中身が変わっているとはいえ、身体は本物のブルーのものであるため、反撃することもできずただ攻撃を凌ぐことで精一杯だった。

ブルーは奇声を発しながら、その身体の圧倒的な力を発揮して激しい攻撃を繰り返し、徐々にイエローを追い詰めていく。

他の戦闘員とは比べ物にならないブルーの猛攻に、イエローは劣勢を強いられていた。


「い、イエロー! くっ……」


レッドはそれに気づいているものの、再び戦闘員たちに囲まれて行手を阻まれている。

戦闘員56号は身体が受けていたダメージが大きく、震えながら地面に横たわったままだった。


「今だ! オマエたち、ソイツを捕まえるイレ!」

「イイィーーーッ!」

「きゃっ!?」


オールチェンジャーの命令を受けた戦闘員たちが背後からイエローにしがみつき、羽交い締めにする。

先ほどまでのブルーと全く同じ状況である。


「イーレイレイレ! オマエも入れ替えてやるイレ!」


オールチェンジャーは地面に倒れていた、胸に78と書かれた戦闘員78号に青いケーブルを突き刺し、もう一本の赤いケーブルをイエローに向かって伸ばす。


「いやっ! やめてっ! わたし……うぅッ!?」


抵抗も虚しく、イエローの身体に赤いケーブルが突き刺された。

その瞬間、イエローと戦闘員の身体がビクッと震え、入れ替わりが始まった。

イエローの身体から、彼女の魂が黄色い光となってケーブルの中を通っていく。

反対の戦闘員の身体からは、ドス黒い穢れた魂がケーブルを通って進んでいく。

オールチェンジャーの胸のモニターには『入れ替え中……』の文字が浮かび、数字は40%、50%、60%……と無慈悲に増えていく。

虚ろな表情を浮かべたままピクピクと痙攣するイエローの身体に、今度はケーブルを通って黒い光が流れ込んでいく。

何かを拒むようにイエローの口がパクパクと動くが、そこに何の意味もなかった。

黄色い光も無様に倒れ込んでいる戦闘員の中へと流れ込んでいき、それぞれの光が二人の身体の中へと溶けていくと、最後に二人はビクンッと大きく震えた。

それを合図にピーッという音が響き、オールチェンジャーの胸のモニターには『100%』という数字と『入れ替え完了』という文字が表示されていた。


「イーレイレイレ! 二人目も入れ替え完了だイレ!」

「イエロー!」


レッドは縋るようにイエローに向かって声をかける。

しかし、その返事はレッドの期待していたものではなかった。


「イイィーーーッ!」


ピンと直立姿勢で手を上げながら奇声を上げるイエロー。

おっとりとした彼女の優しい声が、意味のない奇声となって辺りに響く。

一方で地面に倒れている戦闘員78号は、身体を起こしながら呻いていた。


「イ、イィ……ィ……」


そこには何らかの感情が込められているのは明らかだったが、意味のある言葉は紡がれず、誰にも伝わることはなかった。


「さあ戦闘員56号、78号! オマエたちの力で最後のソイツも捕まえるイレ!」

「「イイィーーーッ!」」


ブルーとイエローは甲高い奇声を上げると、ガニ股で両手を掲げるという滑稽な動作でレッドに迫った。

クールで凛としたブルーと、おっとりとして朗らかなイエロー。

そんなかつての彼女たちの面影はそこにはない。


「くそっ……二人とも、ごめん! 必ず元に戻すし、後でちゃんとお医者さんに診てもらうから! 『ソウルレッドパーンチ!』」

「イィーーッ!?」


レッドの炎を纏った拳を受けて、ブルーとイエローが無様に吹き飛ぶ。

しかし、二人の強靭な肉体はレッドの攻撃を受けても大きなダメージを残すには至らず、しぶとく起き上がった。


「そろそろ、身体が馴染んできた頃イレ。戦闘員56号、78号! オマエたちの必殺技を見せてやるイレ!」

「イイィーーーッ!」


オールチェンジャーの命令を受けたブルーは、弓を構えるような仕草を始めた。

すると、ブルーの手元に青い光が集まり、弓矢のような形になって輝く。


「そ、その動き……まさか……!」

「イイィーーーッ!」


ブルーの手から青い光の矢、『ソウルブルーアロー』が放たれ、レッドの身体を貫いた。


「ぐっ、がはっ……!?」


予想外の攻撃に、レッドは驚愕しながら倒れ込む。

さらに追撃をかけるようにイエローが手を掲げた。


「イイィーーーッ!」


キラキラとした大量の星、『ソウルイエローシャワー』が降り注ぎ、レッドはなす術なく吹き飛ばされた。


「きゃああぁっ!? ……う、うぐっ……二人の技を……なんで、あんたたちが……」

「オレ様に入れ替えられた魂は一定時間が経つと身体に馴染んでいくイレ。相手の技、相手の知識、相手の記憶、人格、それら全てが段々と引き出せるようになるイレ。今はただの戦闘員としてしか動かないコイツらも、いずれはオマエたちのように自分で考えて行動するようになっていくんだイレ。ただし、戦闘員たちの魂はオレ様には絶対の忠誠を誓うように設定されているから正義のヒーローのオマエたちの身体でもオレ様が裏切られる心配はないイレ!」


ブルーとイエローがオールチェンジャーの隣に佇む。

その姿は心なしか、先ほどまでより元の二人の雰囲気に近づいているようだった。


「そ、そんな……二人を、返して……!」

「オマエは他人の心配をしてる場合じゃないイレ。すぐにアイツらと同じ仲間にしてやるイレ!」


オールチェンジャーが青いケーブルを近くに倒れている戦闘員93号に突き刺す。

そして、もう片方の赤いケーブルをレッドに向かって突き出した。


「あ、あたしは……絶対に、諦めない……正義の、ヒーロー……なんだから……!」

「そうやって強がってられるのも今だけイレ! それじゃあ、入れ替えてやるイレー!」


レッドの身体に、赤いケーブルが突き刺さる。

次の瞬間、レッドと戦闘員の身体がビクッと震える。

精一杯の強がりを見せていたレッドの表情は、一瞬にして虚ろなものへと変わり、彼女の魂が赤い光となってケーブルの中を流れていく。

オールチェンジャーの胸のモニターには『入れ替え中……』の文字が表示され、レッドの抵抗などまるで無意味だったかのように淡々と数字だけが増えていく。

反対ではレッドの輝かしい綺麗な魂とは真逆とも言えるドス黒い魂が戦闘員の身体からレッドの身体に向かって流れていく。

最後の抵抗か、レッドの身体がピクピクと痙攣しているが、問答無用で黒い光がレッドの身体の中へと流れ込んだ。

一方の赤い光も、その前進を止めることなどできず、全身黒タイツの無個性な戦闘員の身体へと沈み込む。

レッドと戦闘員の身体がビクッと大きく震えると、ピーッという音が鳴り響きオールチェンジャーの胸のモニターの文字が『入れ替え完了』に変わった。


「イーレイレイレ! 作戦成功だイレ! 我々の邪魔をするソウレンジャーども全員を入れ替えたイレ! この瞬間が本当に堪らないイレ!」


オールチェンジャーが恍惚とした表情で歓喜の高笑いをあげる。

ケーブルを抜かれたレッドがゆらりと身体を起こすと、すぐにピンと直立姿勢になり手を上げながら叫んだ。


「イイィーーーッ!」


明るく活発でみんなのリーダーだったレッドの姿はそこにはなかった。

無意味な奇声を上げ続けるレッドを見て、市民たちの間に絶望的な空気が漂う。


「よし、オマエたちそこに並ぶイレ」

「「「イイィーーーッ!」」」


レッド、ブルー、イエローがオールチェンジャーの前に一列に並び、手を上げながら奇声を上げる。

最早彼女たちは正義の味方、『清魂戦隊ソウレンジャー』ではなく、怪人に忠誠を誓うただの戦闘員だった。


「今日からオマエたちは『換魂戦隊フェチレンジャー』イレ。フェチレッド、フェチブルー、フェチイエローとして、オレ様に尽くすイレ!」

「「「イイィーーーッ!」」」


怪人の手下としての新たな名前を授けられたレッド、ブルー、イエローの三人はそれに応えるように一際大きな奇声を上げた。


「イ、イィーーッ……!」

「イィッ、イ、イィー……ッ!」

「イ、イィ……」


一方、戦闘員93号 、56号、78号の三人は、言葉にならない奇声を発しながら身を寄せ合っていた。

ボロボロの身体で立ち上がることもできず、ただレッド、ブルー、イエローのいる方を悔しそうに見つめるばかりだ。


「さて、オマエたちにもこれからは我々に協力してもらうイレ。したっぱ戦闘員として少しは役に立つイレ」

「イ、イィーーッ!」


戦闘員93号はオールチェンジャーのことを睨みつける。

誰が命令など聞くものか、とでも言いたげな視線は、言葉がなくても戦闘員93号の意思を伝えていた。


「なんだイレ? その反抗的な態度は。オマエたちはもうオレ様に逆らうことすらできないイレ。戦闘員56号! 78号! 93号! 立ってオレ様の前に並ぶイレ!」

「「「ッ!? イ、イイィーーーッ!」」」


戦闘員の三人はオールチェンジャーの命令を受けるとすぐさま立ち上がり、直立姿勢で手を上げながら奇声を上げた。

三人とも、身体が勝手に動いたような感覚にただ戸惑うばかりだった。


「さっきも言ったイレ。入れ替わってから時間が経過すると身体に馴染むって。オマエたちはもう戦闘員の身体に馴染み始めているイレ。今はまだ正義のヒーローだった頃の記憶が残っていても、すぐに忘れて完全に戦闘員に成り果てるイレ。まだ自分を保っていられるうちにぜいぜい最後の時間を楽しむイレ」

「イ、イ……イィ……」


戦闘員たちの顔が絶望に歪む。

三人は今にも泣き崩れそうな心境だったが、オールチェンジャーの「立って並べ」という命令のせいでそれすら許されなかった。


「さてと、今日の戦果は十分イレ。一旦拠点に帰るイレ。オマエたち、後に続くイレ」

「「「イイィーーーッ!」」」


オールチェンジャーの言葉で、レッド、ブルー、イエロー、戦闘員56号、78号、93号、その他大勢の戦闘員たちが一糸乱れぬ動きで移動を始める。

市民たちは自分たちのヒーローが自らの足で悪の組織へと投降していく様子を、ただ見ていることしかできなかった。




────────




数日後。

A市の市街に再びオールチェンジャーが侵攻していた。


「イーレイレイレ! なにもかも入れ替えてやるイレー!」


オールチェンジャーは周りの人間たちを手当たり次第に入れ替えようと二本のケーブルを振り回している。

彼に従う戦闘員たちもそれぞれ破壊行為に勤しみ、街中は大混乱に包まれていた。


「イイィーーーッ!」


戦闘員56号はガニ股で歩きながら近くの建物の窓ガラスを割ってまわっている。

戦闘員78号は看板を蹴り倒してその上に乗っかりながら両手を掲げて周りを威嚇している。

戦闘員93号は近くにいた若い女性に襲いかかり、地面に押し倒して馬乗りになっていた。


「い、いやっ! 離して! あっちいってっ!」


戦闘員93号に襲われている女性は、必死に暴れて抵抗していた。

そのとき、彼女の足が偶然にも戦闘員93号の股間を蹴り上げた。


「イッ!? イ、イィ……」


急所を思い切り蹴られた戦闘員93号は悶えながらその場で転げ回る。

戦闘員は所詮一般人に毛が生えた程度の能力しかないため、必死の抵抗を受ければこのように返り討ちにされることも珍しくはない。


「あーあー、何やってるイレ。使えない戦闘員イレ」


叱責を受けた戦闘員93号はすぐさま立ち上がり、ヨロヨロと歩きながら破壊行為を再開する。

戦闘員たちはオールチェンジャーに忠誠を誓う存在。

命令をこなすことだけを考え、例え身体が痛もうとも命令以外のことは何も考えない。

……例えその中身が元は正義のヒーローであったとしても、完全に戦闘員に染まり切った彼女たち……いや、彼らには命令以外のことは全て無価値なことへと成り下がっていた。


「さて、そろそろあっちの方も終わる頃イレ……お、噂をすれば」


オールチェンジャーの呟きに合わせたように、広場前に三人の少女が現れた。


「オールチェンジャー様! 作戦成功だよ!」


赤いポニーテールの活発な少女、赤澤一香。


「元・ソウレンジャーのアジトは制圧完了。私たちの支配下に落ちたわ」


青い長髪のクールな少女、青柳仁乃。


「これでもうわたしたちの邪魔をする人たちはいないよ〜。やったね〜!」


黄色いショートカットの朗らかな少女、黄瀬蜜葉。

かつて正義のヒーローだったはずの三人は、親しげな声色で怪人に自分たちの戦果を報告していた。


「よくやったイレ! それでこそオレ様の手下イレ!」

「ま、あたしたちにかかればこんなの朝飯前だよ!」

「一香、まだA市の制圧が完全に完了したわけじゃないんだから気を抜かないで」

「でも、あとはもう消化試合みたいなものじゃない? お菓子でも食べながらゆっくり侵攻しようよ〜」


かつての彼女たちの雰囲気を漂わせながら、明らかにかつての彼女たちとは違う言動。

そんな様子を見ながら声を上げる女性がいた。


「一香! 仁乃! 蜜葉! いったい何があったんだ!? どうして怪人に従っている!?」

「ん? あれは誰イレ?」

「元・ソウレンジャーの司令だよ。戦力にはならないと思うけど一応連れてきた」


縄で縛られた司令は、親しげに怪人と話す三人に必死で言葉をかけ続けていた。


「目を覚ましてくれ三人とも! お前たちは正義の味方、ソウレンジャーなんだぞ!?」

「だから、違うって言ってるじゃん、元・司令。あたしたちはもうソウレンジャーなんかじゃないの」


一香、仁乃、蜜葉の三人は、腕についたリストバンドを掲げながら叫ぶ。


「「「フェティシズムチェンジ!」」」


その瞬間、三人の身体が黒い霧に包まれ、それぞれ赤、青、黄のスーツが三人の身体を覆っていく。


「フェチレッド!」

「フェチブルー!」

「フェチイエロー!」

「「「換魂戦隊……フェチレンジャー!」」」


正義の味方ではなく、悪の手下に成り下がった三人が名乗りを上げるのを見て、司令は絶句していた。


「オマエたちも戦闘員たちを手伝ってやるイレ。街を破壊するんだイレ!」

「「「了解!」」」


三人は戦闘員たちの前に立ち、逃げ惑う市民たちに攻撃を始めた。


「悪く思わないでよ! 『フェチレッドパーンチ』!」

「貴方たちは全員オールチェンジャー様に入れ替えてもらう予定なの。逃がさないわ! 『フェチブルーアロー』!」

「ごめんね〜。でも、オールチェンジャー様に従わないみんなが悪いんだよ? 『フェチイエローシャワー』!」


今まで怪人にだけ向けられていたレッド、ブルー、イエローの必殺技が市民たちを襲う。

炎の拳、青い光の矢、キラキラと降り注ぐ星の衝撃を受けて、周りの建物が倒壊していく。

あっという間に市街は瓦礫に埋もれ、阿鼻叫喚が広がっていた。


「そんな……あの三人が、どうして……」


悪夢のような光景を見て力なく項垂れる司令。

そんな彼女にオールチェンジャーが近づいていく。


「オマエにもすぐにわからせてやるイレ」


オールチェンジャーがケーブルを司令に突き刺す。

胸のモニターに『入れ替え中……』の文字が表示され、数字はあっという間に『100%』まで上がった。


「イイィーーーッ!」


縄を解かれ立ち上がった司令が、手を上げながら奇声を上げる。

また一人、正義の味方が悪の手に落ちた瞬間だった。


「さあ、この調子でどんどん入れ替えるイレ! オマエたち、手伝うイレ!」


「「「イイィーーーッ!」」」


周りにいた戦闘員たちが倒れている市民たちを捕まえていく。

司令も戦闘員たちに混じってそれに協力している。

捕まった市民たちのもとに、容赦なくオールチェンジャーが迫って行った。


「いや、やめてっ! た、助けて……!」


戦闘員56号に掴まれた、先ほどの若い女性がケーブルに刺される。


「イイィーーーッ!」


女性は直立姿勢で手を上げながら奇声を上げた。


「くそっ、離せっ! 離せって言ってるでしょ!」


戦闘員78号に掴まれた、気の強そうな女子高生がケーブルに刺される。


「イイィーーーッ!」


女子高生は直立姿勢で手を上げながら奇声を上げた。


「お願いします……! この子だけは、どうか……!」


戦闘員93号に掴まれた、小さい女の子を連れた母親がケーブルに刺される。


「イイィーーーッ!」


母親は直立姿勢で手を上げながら奇声を上げた。


「ママっ! ねえ、どうしたの!? ママーっ!」


そのそばにいた小さい女の子がケーブルに刺される。


「イイィーーーッ!」


小さい女の子は直立姿勢で手を上げながら奇声を上げた。

街にいた市民が一人、また一人戦闘員たちと入れ替えられていく。

気づくと、周辺にいた市民たちはみんな戦闘員と入れ替えられていた。


「「「「「イイィーーーッ!」」」」」


ずらりと一列並んだ市民が一斉に奇声を上げる。

その光景を眺めながら、オールチェンジャーは高笑いをしていた。


「イーレイレイレ! やったイレ! この街の人間はみんなオレ様の手下になったイレ!」

「やったねオールチェンジャー様!」

「ふぅ、とりあえずはひと段落ね」

「流石オールチェンジャー様だね〜。すごいよ〜」

「オマエたちもよくやったイレ。後で褒美をやるイレ」

「やったー!」


フェチレンジャーの三人は手を叩いて喜びを分かち合う。

瓦礫の中ではしゃぐ三人には、元々その身体に宿っていたはずの正義の心などかけらも残ってはいなかった。


「ここを新たな拠点として、これからA市を支配していくイレ。オマエたちは一先ず戦闘員たちを使って簡易キャンプを建てるイレ」

「了解!」


三人は命令を受けると、それぞれお気に入りの戦闘員を従わせて作業を始めた。


「戦闘員56号、早く来なさい。貴方たちみたいな雑兵にできることなんてたかが知れてるのだから、雑用ぐらいしっかりこなしなさい」

「イイィーーーッ!」


ブルーの命令を受けた戦闘員56号が工具を運ぶ。


「戦闘員78号、そこら辺のお店からお菓子回収してきて〜。あ、もちろんあなたたちは食べちゃダメだよ? 一香ちゃんと仁乃ちゃんとオールチェンジャー様で食べるんだから」

「イイィーーーッ!」


イエローの命令を受けた戦闘員78号が崩れた建物の中から食料品を回収していく。


「ほら、戦闘員93号! なにちんたらやってるの! そんなんじゃ日が暮れちゃうでしょ! もうっ、オールチェンジャー様に怒られちゃうじゃない! このノロマ!」

「イ、イイィーーーッ!」


レッドの命令でキャンプを建てていた戦闘員96号が背中から蹴られて転ぶ。

しかし、またすぐに立ち上がり作業を再開した。

レッド、ブルー、イエローは戦闘員たちが働く姿を見て愉悦の笑みを浮かべていた。

彼女たち三人は、この三人の戦闘員たちが自分たちと入れ替わった相手だと知っている。

しかし、戦闘員たちは自分に命令を下す人物が元の自分だったことなど覚えていない。

三人には最早そんなことは関係なかった。

ただ忠実に命令をこなすことこそ彼らの使命であり、本能だからだ。


「よしよし……フェチレンジャーのおかげで仕事が捗るイレ。このまま世界中の全てを入れ替え尽くしてやるイレ! イーレイレイレ!」


オールチェンジャーは目の前で戦闘員たちを働かせているレッド、ブルー、イエローたちを見てほくそ笑んでいた。

敵だったはずの正義の味方をそのまま手中に収めたオールチェンジャーの侵攻を阻むものは、最早A市にはいなかった。

それからわずか数日で、A市の市民の魂は全て戦闘員と入れ替えられた。

戦闘員となった元A市の市民たちはオールチェンジャーに従い破壊行為を繰り返し、A市の市民たちの身体に馴染んだ元戦闘員たちは怪人に従う人類としてそのサポートに尽くした。

かくして、A市の人類は敗北し、怪人に支配されることとなった。

その功績のうちの大半がフェチレンジャーの活躍であったことは言うまでもない。

Comments

華々しいヒーローが無個性雑魚化し能力も入れ替えられる屈辱。ラスト自覚なしに元の自分にこき使われる元ヒーローの戦闘員達の惨めさ等々本当に好きなシチュが詰め込まれた作品でした。

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