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氏裸
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【小説】完璧お嬢様とストーカー喪女

「見て! 麻里亜さまよ!」

「マリア様だわ! ごきげんよう!」


私、西条麻里亜を見た女子生徒たちが声を上げて駆け寄ってくる。

それに対し、私は笑顔を振り撒きながら答えた。


「ええ、ご機嫌よう」


たったそれだけのことで、周りからはきゃーっという黄色い歓声が上がった。


「麻里亜様にお声をかけてもらえた!」

「今マリア様私のこと見てくださったわ!」


女の子たちは私を取り囲むように集まりながら喜びの表情を見せている。

……申し訳ないのだけれど、そうやって前に立たれてしまうと歩けなくて困ってしまう。

これから生徒会室に向かわないといけないのに。


「麻里亜様」


すると、私の後ろから落ち着いた声で誰かが私に呼びかけてきた。

周りの女の子と共々振り返ると、そこにはショートカットの髪型の小柄な少女、生徒会書記の真中絵麻が立っていた。


「先生が生徒会室でお待ちです」


真っ直ぐに私を見た絵麻と一瞬視線を交わした後、私は周りの女の子たちに優しく声をかけた。


「ごめんなさい、呼ばれてしまったわ。少し退いてもらえるかしら?」

「あ、ごめんなさい!」

「ごきげんよう麻里亜さま!」


立ち去っていく女の子たちに手を振りながら、私は小さな声で絵馬に喋りかける。


「……いつも悪いわね、絵麻」

「全くです。麻里亜様は誰にでもいい顔しすぎなんですよ、本当にもう……」


絵馬が呆れたようにため息をつきながら歩き出したので、私はその横に並んだ。

木造の古びた校舎の中を絵馬と二人で歩く。

ここは全寮制のお嬢様学校、聖ディアーナ女学院。

私この学院で生徒会長を務めている。


「でもああやって声をかけられたら答えないわけにはいかないでしょう? 挨拶は大事だと日頃から言っている私が」

「だからって一々取り巻きに構っていたらキリがありませんよ。貴女はもう少し自分が人気者であるという自覚を持ってください」

「それは……わかっているのだけれど……」


私を慕ってくれる女の子たちを無下にするのも胸が痛むので、つい構ってしまう。

でも、それで絵麻に手間を取らせてしまっているのは流石に問題だと思っている。

……結局なかなかやめられないのだけれど。

生徒会室の前までやってきた私たちは扉を開いて中に入った。

中には誰もいない。

先ほど先生が待っていると言っていたのは絵麻の嘘だ。

ああやって言うのが一番簡単だというのが絵麻の談。

個人的には嘘をつくのは良くないと思うのだけれど、助けてもらってる私が文句を言うのは筋違いなので黙認している。


「紅茶を淹れます。麻里亜様は何にしますか?」

「ダージリンをお願い」

「わかりました」


荷物を置いた絵麻がテキパキと紅茶を淹れ始める。

絵麻はとても真面目で優秀な女の子だ。

私がしてほしいことを言えば必ずそれに応えてくれる。

たまにさっきみたいなお小言ももらってしまうけれど。

私が見つめていると、絵麻は怪訝な顔をしてこちらを見てきた。


「何か私の顔に付いてますか?」

「いいえ。ただ、絵麻は本当に優秀だなあって思って」

「……いつも一人で全部やっちゃう人が何を言ってるんですか」

「そんなことないわ。絵麻に手伝ってもらって私はすごく助かっているし」

「でもこの前の文化祭実行委員編成の手続きだっていつの間にか麻里亜様が一人でやってたじゃないですか。私も手伝うって言ったのに。その前だって……」

「ま、まだ根に持っていたの? その件はもう何度も謝ったじゃない」


一人でやった方が早いことは絵麻の手を煩わせる必要もないというだけなのだけれど、絵麻はそれが気に入らなかったみたい。

絵麻は少し不満げな顔をしながら私に淹れたての紅茶を差し出してきた。


「どうぞ」

「いただくわ」


私はカップを傾けて紅茶を口に含む。


「うん、美味しい。絵麻、また紅茶を淹れるの上手くなったわね」

「麻里亜様から教わりましたから。美味しい紅茶の淹れ方は」

「私なんてちょっと教えただけよ。もう絵麻の方が上手いんじゃないかしら?」

「そんなわけないじゃないですか。謙遜も過ぎると嫌味になりますよ」

「そ、そんなつもりはないのだけれど……ごめんなさい」


私は純粋に褒めているのだけれど、絵麻にはすぐ謙遜と受け取られて怒られてしまう。

絵麻だってもう少し自分の能力を評価した方がいいと思うのだけれど。


「……さてと、それじゃあ今日の仕事を始めましょう。……絵麻?」

「…………」


気を取り直して机に向かおうとすると、絵麻が少しバツの悪そうな顔でこちらを見ていた。


「私は……麻里亜様とご一緒に生徒会の業務に取り組めて、とてもありがたいと思っています。麻里亜様は完璧で、なんでも一人でできて……でも、私も力になりたいと思っていて……ですから、その……」


声が小さくなっていき、放っておくと泣き出してしまいそうな様子で俯く絵麻。


「どうしたのよ絵麻。もしかして、絵麻のお小言に私が怒ってると思ったの?」

「それは……その……自分でも失礼なことを言ってるなと、後から自己嫌悪することもあって……」

「もう、そんなこと気にしなくていいのに。私はあなたのことを頼りにしてるのよ? これからも思ったことは言ってくれて構わないわ」

「っ、麻里亜様……! はい!」


絵麻の顔がパァッと明るくなる。

こういうちょっと子供っぽくて素直なところも絵麻の可愛いところだ。

私の大切な可愛い後輩。

絵麻と一緒にいられてありがたいと思っているのは私も一緒だ。

私たちは穏やかに笑い合いながら作業を開始した。

そんな私たちの様子を、生徒会室の外から眺めている人物がいることにも気付かずに……。


「んふ、ふっ……あぁ、マリアさま……き、今日もお美しいです……そのお顔も、お体も、全部、わたしのものに……」




────────




ある日、私が廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「あ、ああ、あの……ま、マリアさま……」


その緊張に震えた声が聞こえた方を振り返ると、一人の女子生徒がこちらを見ていた。

髪を三つ編みに結い、眼鏡をかけている女の子だ。

体は痩せ細っていて小柄で、とても華奢な印象を受ける。

自身なさげな顔で、微かに震えながらこちらを見ていた。


「私に何か用事かしら?」


私は微笑みながら女の子に声をかけた。

すると、女の子は顔を赤くしながら、とても幸せそうに蕩けた表情で口を開いた。


「ま、マリアさまは、わたしのことを覚えていらっしゃいますか……?」

「え?」


女の子の言葉に対し、私は答えに窮してしまう。

多分この子とは初対面だと思う。

今まで顔を合わせたことも話したことも私の記憶の中にはないのだけれど、女の子の口ぶりからすると以前にもどこかで会ったことがありそう。

私が忘れてしまっているだけの可能性もあり、そうだとするとこの子にとても失礼だ。

なんとか思い出そうと記憶を辿っても、この子が誰なのか私にはわからなかった。


「えーっと……ごめんなさい、思い出せなくて。前にどこかで話したかしら?」

「そう……です、か……残念、です……」


女の子は心底悲しそうな顔で落ち込んでいた。

そんな顔をされると非常に申し訳ない気持ちになってくる。


「あなた、お名前はなんだったかしら?」

「わ、わたしは……あ、葵、都子です……」


葵都子。

一年生の名簿でそんな名前を見た記憶はあるけれど、やはり話した記憶はない。

ともあれ、今は無理に思い出すよりも彼女の話を聞くのが先だろう。


「都子さんね。私に何か話したいことがあるのよね? なんでも言ってちょうだい」

「は、はい……マリアさまに、相談したいことが、あって……でも、ここだと話しにくいので、ほ、放課後に、旧校舎の第二理科室に、き、来てもらえませんか……?」

「ええ、わかったわ」


後輩からの相談事というのは珍しいことでもない。

私のことを頼ってくれるならそれに応えたいと思うし、私に話すことで相手の悩みが晴れるなら積極的に聞くべきだとも思う。

絵麻には、他人の相談に一々全部乗っていたらキリがないとお小言を言われてしまったけれど。

そんなことを考えていると、ちょうど絵麻の声が聞こえてきた。


「葵さんっ!」


その声は、冷たく、怒りを孕んだ声だった。

絵麻は素早く私と都子さんの間に入り込むと、都子さんのことを睨みつけた。


「こんなところで何をしているんですか?」

「あ、わ、わたしは……た、ただ……マリアさまと、お話を……」

「麻里亜様は貴女なんかと話しているほど暇じゃありません。さっさと教室に行ってください」

「あ、あぅ……」


絵麻の苛烈な物言いに私は思わず気圧されてしまった。

普段の絵麻ならこのような言い方はしない。

いつも私が女の子たちに囲まれていても淡々としていて、ここまで嫌悪感を滲ませるのは見たことがなかった。

都子さんは怯えた様子でその場から立ち去って行った。


「ちょ、ちょっと絵麻? どうしたの急に」

「麻里亜様、彼女と何を話していたんですか?」

「え? 相談に乗ってほしいって言われただけだけれど……」

「そうですか」


絵麻は都子さんの去った方を見ながら、尚も不機嫌そうな顔をしていた。


「彼女、葵都子さんは私のクラスメイトなんですが、ちょっと……問題のある生徒で」

「問題? どんな?」

「それは……」


絵麻は言いづらそうに言葉を濁した。

彼女のことをあまり私に話したくないのは明らかだった。

それはまるで私に気を遣っているかのように見えて、私はそれ以上聞く気になれなかった。


「とにかく、金輪際彼女とは話さないで下さい。もし向こうから話しかけてきても無視してください。いいですね?」

「そんな……」

「前にも言いましたが麻里亜様は誰にでもいい顔をしすぎです。少しは威厳ある態度を周りに見せてください」


絵麻はそう言い切ると立ち去って行った。

都子さんはあまり人と話すのに慣れてなさそうな子だという印象でそれ以外に気になるところはなかったけれど、絵麻があそこまで言うということはよっぽど問題のある生徒なのだろうか。

でも、約束をしてしまった以上彼女の相談に乗らないわけにもいかない。

それに、問題を抱えている子なのだとしたら誰かが助けになってあげた方がいい。

絵麻にはああ言われたけれど、私は約束を果たすために放課後に彼女の言っていた旧校舎の第二理科室へと向かうことにした。




────────




「ごめんなさい、遅くなったわ。待ったかしら?」


私が第二理科室を訪れると、そこにはすでに都子さんが待っていた。

都子さんは私を見た瞬間、頬を赤らめながら恍惚とした表情で口を開いた。


「あぁ、マリアさま……ほ、本当に来てくださったんですね……あ、ありがとうございます……!」


都子さんの声が震えている。

緊張しがちな性格なのかと思ったけれど、どちらかというとそれは興奮しているかのような震え方だった。

彼女の言動に少しの不気味さを覚えた瞬間、脳裏に絵麻の言っていた『問題のある生徒』という評価がよぎる。

……いや、今は彼女の相談に乗るために来たのだ。

そんな偏見を抱いていては彼女に失礼だ。

私は頭を振りながら、都子さんに尋ねた。


「それで、相談って何かしら?」

「はいっ……ま、マリアさまには……わ、わたしのものになってほしいんです……!」

「…………え?」


目をキラキラと輝かせながらこちらを見る都子さんに、私は間の抜けた返事をしてしまった。

私の頭が理解を拒んでいる間に、都子さんは続ける。


「ま、マリアさまは覚えていらっしゃらないですが……マリアさまは前世でわたしの持ってた大切なお人形だったんですよ……! あんなに可愛がってあげていたのに、忘れられてるなんてショックですけど……でも、マリアさまはわたしのためにこの学校に現れてくれたんですよね……! ほら、わたしのためにこんなに写真にも写ってくれてますし……!」


そう言って都子さんは何枚もの写真をわたしに見せつけてきた。

教室での私。

体育をしているときの私。

寮でのプライベートな私。

全て隠し撮りだ。

私は背筋がゾッとするのを感じた。


「わ、わたし……マリアさまとこうやってまた一緒にいられて嬉しいです……最近はあの邪魔な女……真中絵麻に妨害されたりしてましたが……でも、今日は二人きりだから安心ですね……!」


絵麻……。

あなたの言うことをもっとちゃんと聞いておけばよかった。

きっと絵麻は都子さんの想像を絶する狂気を見て、私の目に触れさせないように遠ざけていたのだろう。

絵麻の気遣いを無下にしてここに来てしまったのは私のミスだ。

私は真面目な顔で都子さんと向かい合った。


「都子さん、私はあなたのものにはならないし、私はあなたのお人形ではないわ。それに、盗撮行為は犯罪よ。それはしてはいけないことだわ」


真正面から都子さんの目を見つめて言う。

すると、都子さんはクスクス笑いながら言葉を返してきた。


「んふふ……い、今更何を、言ってるんですか……? マリアさまは、全てわたしのものになるんです……ほら、これを見てください……」


都子さんは持っていたカバンの中から一冊の分厚い本を取り出した。

年季の入ったハードカバーの黒い本だ。

表紙に書いてある文字は日本語ではなさそうで何の本なのかはわからないけれど、妙な禍々しさのようなものを感じる。


「す、すごいでしょう……? 八世紀に執筆されたあの偉大な魔導書の写本のコピーなんですよ……? こ、この本の力を借りれば、全てわたしの思うがままなんですよ……! あひゃ、あひゃひゃひゃっ!」


都子さんは気が触れたように笑い始める。

これは、私の手には負えないかもしれない。

私はゆっくりと後退りして扉に手をかけた。


「……ど、どこへ行くんですか? 逃しませんよ……────────……」


都子さんが、日本語ではない呪文のようなものを唱えた。

その瞬間、扉は鍵が閉まったかのようにびくともしなくなり、私は完全に閉じ込められてしまった。


「そんな、嘘……!」

「ま、マリアさま……大丈夫ですよ……わたしは大切に使いますからね……マリアさまのお顔も、お体も……あひゃっ!」


都子さんが本を手に持ちながら迫り寄ってくる。

逃げ場がなくなった私はその場にへたり込むことしかできなかった。


「そ、それじゃあいきますね……────────……」


再び都子さんが呪文を唱えた瞬間、私の目の前は真っ暗になった。

私の胸の内にあったのは、絵麻に対する申し訳なさだけだった。




────────




……ひどい頭痛がする。

目眩もして、目の前がはっきりしない。

私は、どうなったのだろう。

あの都子さんの持っている本の力で、私は都子さんのものになってしまったのだろうか。

そもそも、都子さんのものになるとはどう言う意味だったのか、それすらもよくわかっていない。

すると、私の耳に誰かの声が入ってきた。


「あ、あぁ……マリアさまのお身体……最高ですぅ……!」


興奮したように嬌声を上げる女性の声。

都子さんの声ではない。

じゃあ一体誰が……?

私は頭を押さえ、ふらつきながら立ち上がり声の主の顔を見た。

ぼんやりとした視界にピントが合っていき、その相手と目が合った。


「…………え?」


一瞬、何が起きているのかわからなかった。

突然目の前に鏡が現れたのかと思った。

私の目の前には、『私』が立っていたから。

でも、その『私』は私の意に反して動いていた。

恍惚とした表情で自分の体を抱きしめており、その様子は普段鏡で見る自分の姿からはかけ離れている。

これは鏡像じゃない。

私の目の前に、もう一人の『私』がいる。


「な、なんで私がもう一人……んっ、んん……? な、なに……この声……?」


私は自分の喉の異常に気付いた。

自分のものじゃない女の子の声が、自分の喉から鳴っている。

異常が起こっているのは喉だけじゃなかった。

手足も、体も、普段見慣れたものではなく、痩せ細った華奢なものになっている。


「な、なんなのこれ……!? わ、私……どうなって……」


すると、目の前の『私』が恍惚とした表情のまま私に近づいてきた。


「お、お気分はどうですか……? マリアさま……」


その他人と話すことに慣れてなさそうな吃った喋り方は、ついさっきまで私と一緒にいた都子さんの喋り方そのものだった。


「まさか……あなた、都子さん……!?」

「は、はい……そうですよ……魔導書の力でマリアさまのお身体を手に入れた、葵都子です……」


恍惚とした表情の『私』……都子さんは、とても嬉しそうに告げた。


「こ、このお身体……素晴らしいです……モデルのようにスタイルが良くて、綺麗な髪や美しいお顔も、全て……最高のお身体です……あぁ、マリアさま……」

「ひ、人の身体で何を勝手なこと……!」

「ま、マリアさまもご自分のお身体をよく見てください……こ、これからは、その身体で過ごしていただくことになりますから……」


そう言って都子さんは私に鏡を見せてきた。

そこに写っていたのは、痩せ細った華奢な体、三つ編みの髪、眼鏡をかけた顔。

紛れもなく、都子さんの身体だった。


「わ、私が都子さんになってる……!? わ、私たち、入れ替わってしまったの……!?」

「は、はい……これからはわたしがマリアさまとして、マリアさまがわたしとして生きるんです。これでずーっと、マリアさまのお身体はわたしのものです……あひゃっ、あひゃひゃっ!」


目の前の『私』が気が触れたように笑う。

それが元の自分の身体だということも、今の自分が都子さんの身体になっていることも、私には受け入れられなかった。


「こ、こんなのありえないわ……夢、いや、幻覚よ……」

「んふふ……ゆ、夢でも幻でもないですよ……全て現実です……この手も、この足も、全部現実のマリアさまのもの……もちろん、このお胸も……」


そう言うと都子さんは『私』の胸をその手で掴み、揉みしだき始めた。


「あぁ、わたしが、マリアさまのお胸を揉んで……わたしが、マリアさまのお胸を揉まれてるぅ……ああッ、いいっ……!」

「ちょ、ちょっと、何してるの!? 私の身体で、そんなことやめなさい!」

「んっ……もう、わたしの身体、ですよ……!」


都子さんは制服をはだけさせ、直接胸を触り始めた。

露出した乳房を揉みながら、その先端の乳首を摘み、弾き、その度に身体を震わせている。


「ま、マリアさまのお胸……やわらかいです……んあっ、乳首も、きもちいい……」

「もうやめて! 私の身体で……私の声でそんなことを言わないで!」


目の前で繰り広げられる自分の痴態に、私は気が狂ってしまいそうだった。

都子さんは私の制止を無視して『私』の身体を触り続ける。

ついにはスカートの中に手を突っ込み、その中まで手を触れ始めた。


「んはぁ、こ、ここが、マリアさまの、おまんこ……んあっ、ゾクゾクしちゃいますっ、マリアさまぁ……!」


淫らに頬を染め、喘ぎ声を上げながら髪を振り乱す『私』。

これが自分の姿だと受け入れることは私には無理だった。

違う違うこんなの私じゃない。

しかし、どんなに否定しても目の前にいるのは紛れもなく西条麻里亜の身体だった。


「あっ、イくっ、ま、マリアさまのお身体で、イッちゃいますぅっ、んっ、あッ、ああぁあァぁッ!!!」


『私』の身体がビクンッ、と大きく震えた。

手足がガクガクと痙攣気味に震えているけれど、その表情はとても満足げだった。


「んっ……はふぅ……ま、マリアさまのお身体でオナニー……さ、最高でした……」

「……都子さん、早く、元に戻しなさい」


私は、努めて冷静に、都子さんを見据えて言った。

この非現実的な状況と酷く衝撃的な光景に頭がおかしくなりそうではあったけれど、私はなんとか心を落ち着けて都子さんに迫った。


「も、戻すわけないじゃないですか……ま、マリアさまに代わって、わたしがマリアさまとして生きるんです……」

「そんなの、無理に決まってるでしょう! 身体が入れ替わっていても、周りの人たちが違和感に気付かないわけが……」


私が都子さんに食ってかかったそのとき。

第二理科室の入り口の扉がいきなり開かれた。


「麻里亜様っ!」

「絵麻!?」


扉を開いたのは、絵麻だった。

もしかして、私のことを心配して探してくれていたのだろうか。

絵麻は、制服をはだけさせている『私』の身体の都子さんを見て驚愕したような表情になっていた。


「絵麻! これは違うの! 私、都子さんに身体を奪われてしまって、勝手にこんなことをされてしまったの!」


絵麻はカツカツと早足でこちらに向かってくる。


「都子さんは不思議な力の宿った本を持っていて、それを使うことで身体を入れ替えることができるみたいなの。だから、あっちの『私』は都子さんで、私が本物の西条麻里──」

「ッ!!」


パァンッ、と乾いた音が響いた。

私がかけていた眼鏡が床に落ちる。

頬が熱を帯びてジンジンと痛みを発していた。

数秒経ってから、私は絵麻にビンタをされたのだと気付いた。


「よくも……よくも麻里亜様を……」


絵麻がその顔を憎悪に歪めてこちらを見ている。

こんな鬼気迫った絵麻の表情を真正面から見るのは初めてだった。

私はあまりの衝撃に頭の中が真っ白になって身動きひとつ取れなかった。


「葵都子……貴女のこれまでの麻里亜様へのストーカー行為を、私は不問にしました。事を大きくして騒ぎになれば麻里亜様が傷つくと思ったからです。でもそれは間違いでした。貴女はさっさと退学処分にするよう学校側に報告するべきだったんです……」

「ち、違うの……絵麻……話を……」

「口を開くなッ! 穢らわしいッ!」


絵麻の怒声が教室に響く。

あの絵麻が、私にここまでの怒りを向けているという事実が、現実なのだと受け入れられない。

絵麻は私の腕を掴むと、強引に引っ張っていこうとしてきた。


「麻里亜様に不埒な行為を働いたこと、先生たちに報告します。来なさい!」

「ま、待って……絵麻….」


私が何を言っても、絵麻の耳には入っていないようだった。

するとそのとき、それまで黙っていた都子さんが声を上げた。


「……待って、絵麻」


落ち着いた、優しい声音。

私と絵麻は思わず同時に振り返る。

そこには微笑みを浮かべた『私』が佇んでいた。

鏡の中で何度も見たことがある、いつもの『私』が。


「麻里亜様……?」

「都子さんは悪くないの。私が勝手に服を脱いだのよ。あなたは勘違いをしてるだけなの」

「は!? そ、そんなわけないじゃないですか! 彼女が麻里亜様を襲ったんじゃ……」

「いいえ。都子さんは私とお話したかっただけで、私は暑かったから服を脱いだだけ。ただそれだけのことなのよ。そうでしょ? 都子さん」


『私』の身体が微笑みながらこちらに問いかけてくる。

けれど、私の頭は混乱していて何も返答できなかった。

都子さんの喋り方は、『私』そのものだった。

私がいつも話してるような口調で、都子さん本来の少し吃った口調は影も形もなかった。

どうして?

どうしてそんなに上手く私の真似ができるの?


「そういうわけだから絵麻、私もう少しだけ都子さんと話があるの。少しの間二人きりにしてもらえないかしら? 大丈夫よ、すぐに済むから」

「……本当ですか?」


絵麻は納得のいっていないよう顔をしていたけれど、渋々といった様子で第二理科室から出ていった。

絵麻が出ていった扉を閉めると、都子さんはクスクスと笑って私の方を見た。


「……と、というわけで、マリアさま……身近な人でも、この入れ替わりには気づけないんですよ……んふふ……」

「……どうしてあそこまで完璧に私の真似ができるの?」

「じ、実はですね……い、入れ替わった身体でオナニーをすると、身体の知識や記憶を取り込むことができるんです……だ、だから……こうやって普段の私のように話すことも可能よ。こうして振る舞っていれば、誰も入れ替わっているなんて気付かないわよね。ふふっ……」

「っ……!」


目の前で私ではない『私』が喋っているその様子は、あまりにも不快感が強かった。

これでは、本当に私……西条麻里亜という人間が乗っ取られしまったみたいだ。

なんとかして、この入れ替わりの事実を絵麻や周りの人に伝えないと……。


「先に言っておくけれど、誰かに言おうなんて思っては駄目よ。この入れ替わりは誰にもバレないようにしてもらうわ。もしバレたらそのときは……そうね……あなたのことだからこの身体を傷付けるぐらいじゃ動じないだろうし、そんなことは私もしたくないし……そうだわ、絵麻に責任を取ってもらうことにしましょう」

「っ!?」


都子さんは楽しそうに微笑んでいた。


「もし誰かに話しでもしたら絵麻がどうなるか……わ、わかりますよね……? マリアさま……あひゃっ、あひゃひゃっ!」


『私』のような表情から一転して、都子さんの本来の狂気に満ちた笑いを浮かべる。

これは明確な脅しだ。

絵麻からすれば今の都子さんは『私』なのだから警戒などするはずもなく、信頼につけ込んで何をされるかわからない。

絵麻を人質に取られてしまった以上、迂闊なことはできなくなってしまった。


「い、一応連絡先の交換はしておきましょう……な、何かあったらいつでも連絡をくださいね……」


都子さんは『私』のスマホを手に取り、都子さんのカバンに入っていた都子さんのスマホと連絡先の交換を済ませた。

都子さんは見せつけるように都子さんのスマホを私に手渡してくる。

ドクロのプリントがついた黒いカバーに包まれていて、正直なこと言うとあまり私の好みではない。

これからは、私はこのスマホを自分のものとして使わなくてはならない。

他人のものであるはずのこの都子さんのスマホを。


「……わ、わたしから話すことは以上です……わたしのカバンは、これからはマリアさまのものだから持っていってくださいね……あ、この魔導書はあげませんよ、さすがに……んふふ……」


都子さんは床に落ちていた黒い本を拾い上げると、『私』のカバンの中にしまった。


「そ、それじゃあ帰りましょうか……寮に……もちろん、あなたが帰るのは『私』の部屋ではなく都子さんの部屋だけれどね」


都子さんは私の口調になると、軽い足取りで扉を開いた。

外では、話が終わるのを待っていた絵麻が一人で立っていた。


「……もういいんですか?」

「ええ。ごめんなさい、絵麻。あなたに余計な心配をかけて」

「まったくですよ。後で詳しい話を聞かせてもらいますからね」


都子さんと絵麻は親しげに話しながらその場を立ち去っていく。

私はその様子を、ただただ悲しい気持ちで見ていることしかできなかった。




────────




私は、一人トボトボと歩いて寮へと帰った。

私の部屋と都子さんの部屋では棟が別なのでいつもとは違う道であり、これを帰ると呼ぶのかは微妙だな、なんてことを考えていた。

時間帯的には夕食の時間なので、とりあえず私はそのまま寮の食堂へと向かった。

お腹を空かせた女子生徒たちで混雑しており、それぞれ仲の良いグループで固まって談笑しながら食事に興じている。

私は配膳を受け取ると、空いてる席に座って食事を始めた。

いつもだったら自然と周りに人が集まるため、一人で食事をすることは稀だった。

けれど今は、周りに誰もいないどころか、見えない壁でもあるかのように距離を取られてるように感じる。

都子さんは友達とかいないのだろうか。

私は、二つ離れた席に座っていた女の子に声をかけてみた。


「あの、ちょっといいかしら? 聞きたいことがあるんだけど……」

「ん? あ、葵さん……えーっと、な、なにかな?」


私に声をかけられた女の子は愛想笑いを浮かべているけれど、その内心では嫌そうなのは明らかだった。


「……いえ、なんでもないわ。ごめんなさい……」


私は女の子に頭を下げて自分の席に戻った。

どうやらここでは都子さんは腫れ物扱いされているらしい。

普段の素行の問題が知れ渡っているのだろう。

自分のことではないとはいえ、ああして真正面から嫌そうにされると流石に傷ついてしまう。


「……それでも、絵麻の態度よりはマシよね……」


未だヒリヒリと痛む頬を撫でる。

大切な可愛い後輩である絵麻に怒られ叩かれたことは、とてもショックだった。

そのせいか、さっきから食事も喉を通らない。

痩せているこの都子さんの身体が少食なだけかもしれないけど。


「はぁ……これからどうしよう……」


心が弱気になってくる。

でも、それじゃ駄目だ。

なんとしてでも元の身体に戻らないと。

私は無理やり食事をお腹の中に入れ、食堂を出た。

とりあえず都子さんの部屋に向かおう。

もしかしたら元に戻るための手がかりがあるかもしれない。

私は都子さんの部屋の前に立ち、鍵を差し込んだ。

扉を開け、中に入る。


「お、お邪魔します……って、うわっ、なにこれ……?」


部屋の中は、異様だった。

壁一面に写真が貼られていて、そこに写っているのはどれも私だった。

西条麻里亜の偏執的なストーカーの部屋。

今の私はそんな部屋の主人になっているのだと思うと、ため息が漏れるばかりだった。

部屋の中にカバンを置き、ベッドに腰をかける。

軽く見回すと、私の写真以外には黒魔術を思わせるような装飾が色々と見られ、都子さんの趣味が伺える。

はっきり言って、私とは趣味が合わないけれど。


「なんだか、落ち着かない部屋ね……」


ベッドの上で私は姿勢を崩す。

他人の部屋の中というだけでも落ち着かないのに、それがこうも極端な部屋だと尚更だ。

部屋に貼られている写真にはその全てに私が写っていて気味が悪い。

中には私が更衣室で服を脱いでいるものまであった。

酷いプライバシーの侵害だ。


「……んっ……ふぅ……」


私は脚を擦り合わせる。

本当に落ち着かない。

ここにいるだけで、なんだか胸が勝手にドキドキしてくる。

それに、なんだかさっきから暑い気がする。

私は汗で湿った制服を脱いだ。

痩せて骨張った都子さんの肌が露出していく。

私、本当に都子さんの身体なんだ……。

そんなことを意識したら、また胸がドキドキしてきた。

ちらりと写真に映る『私』が目に入る。

身体が熱い。

熱が、どんどん高まっていく。


「はぁ、はぁっ……んっ……んんっ!?」


私は、無意識のうちに乳首に手を伸ばし指で触っていた。

ハッとなった私は慌てて手を離す。


「な、何をしているの私は……」


こんな、自慰行為のようなはしたない真似をするだなんて……。

今までの人生でしたことなんてほとんどなかったのに急にこんなことをしてしまうのも、もしかして都子さんの身体のせいなのだろうか。

そのとき、頭の中で都子さんの言っていた言葉がよぎった。


『い、入れ替わった身体でオナニーをすると、身体の知識や記憶を取り込むことができるんです……』


私もこの身体で自慰行為をすれば、都子さんの知識や記憶を取り込むことができるのだろうか。

もしそうなら都子さんの記憶の中に元の身体に戻る手がかりもあるかもしれない。


「やる価値は……あるわよね……」


私はごくりと唾を飲み込み、都子さんの胸に触れた。

元の私と比べると薄い胸板。

その先端にある乳首は、私の身体と比べてもはるかに敏感だった。


「んんっ……これ、すごい……」


両手の人差し指と親指で、それぞれ乳首をにぎにぎと摘む。

軽く力を入れて潰すように握ると、まるで電流が流れるかのように刺激が迸る。

初めは恐る恐るだった私の指は、徐々に大胆に刺激を求めて動いていく。


「んっ、あっ……こんな、はしたないのに……」


私は、本当はこんなことしたくない。

でも、これは都子さんの記憶を取り込むためには必要なこと。

必要なことだから、こうしているのは仕方のないことなんだ。


「あっ、あっ……んんッ! これっ、きもち、いい……あっ……」


口から漏れ出る声が段々と大きくなっていく。

それに合わせて、私の手は自然と股間へと伸びていく。

普段は触れることのないその秘所に、私の指がそっと触れた。


「ッ! ……はぅんっ、ここも、すごいっ……んあっ……」


乳首以上に敏感なそこから流れる刺激は、私の脳を激しく揺さぶった。

ゾクゾクとした感覚が身体の奥から伝わってきて、お腹の奥が疼いてたまらない。


「きもちいい、これっ、すごくきもちいいのぉ……もっと、もっとぉ……」


私は夢中になって股間の秘所を弄る。

こんなに気持ちいいのは生まれて初めてだった。

なんで今までしてこなかったのか不思議なくらいだ。

というか、あれ?

私、なんでこんなことしてるんだっけ?

頭がぼーっとしてうまく思考がまとまらなくなっていく。

私は、今オナニーに夢中になってて……。

そうだ、オナニーをして都子さんの記憶を取り込まなきゃいけないんだ。

これはしなきゃいけないこと。

必要なこと。

だから、気持ちよくなっても仕方ないんだ。

仕方ないから、きもちよくなってもだいじょうぶ。


「あっ、んあッ、きもちいい、きもちいいきもちいいきもちいいっ! んおっ、おほぉッ!」


声を上げるともっと気持ちよくなる。

私は心のままに、乱れに乱れて声を上げた。


「おぉっ、きもち、いぃっ、あっ、なんかきちゃうッ、んッ、お、おほおおぉおぉッ!!?」


ビクンビクンッ、と身体が震えると同時に大きな快感が脳みそを貫いた。

目の前がチカチカして、視界が霞んでいく。

全身に力が入って、足がピンっと伸ばされたまま背筋が反りかえる。

ああ、最高に気持ちいいっ……!

その瞬間、私の頭の中に大量の情報が流れ込んできた。

初めて見る場所。

初めて見る人の顔。

それらが、私の中で記憶として定着していく。

これは、都子さんの記憶……?

駆け巡る様々な景色の中で、一際輝いているものがあった。

視線の先で優雅に佇む一人の女性。

あれは……マリアさま……。

とても美しいそのお姿にわたしは見惚れて動くこともできない。

あぁ、マリアさま……。


「マリアさまぁ…………って、わ、わたし、なにを言って……」


思わず口から漏れ出た言葉に、わたしは戦慄した。

西条麻里亜は自分だ。

自分に対してこんな、心酔するような気持ちなんて持つわけが……。


「わ、わたしは……マリアさまなんだから……って、ち、違う……わたし、私は、麻里亜本人なのだから……」


気を抜くと、まるで都子さんのように少し吃った口調になってしまう。

これが、記憶を取り込んだ影響?

まるで都子さんの人格と混ざってしまったみたいだ。

わたしは都子さんの記憶があれば都子さんの演技ができるようになるのだと思っていたけれど、これでは演技どころか都子さんそのものになってしまいそうだった。


「くっ……こ、こんなはずじゃなかったのに……そ、そうだ、元に戻る方法……」


わたしは頭の中にある記憶力から元に戻る方法を探した。

思い浮かんだのは、あの黒い本。

都子さんがわたしたちの身体を入れ替えるときに使ったあの魔導書があれば元に戻れるかもしれない。


「な、なんとか……あの本を手に入れて……は、早く元に戻らないと……わ、わた、私は、西条麻里亜、よ……」


わたしは意識を強く保ち、自分がマリアさまであると強く念じた。

でも、それは葵都子がマリアさまになろうとしているかのような痛々しさを伴う演技のように思えてならなかった。




────────




翌日から、わたしは行動を開始した。

まずはマリアさ……都子さんを尾行して彼女の行動をつぶさに観察し、魔導書がどこにあるかを調べた。

この身体は普段から授業をサボって『わたし』のことをストーカーしていたため、いつもやっているかのように遂行することができた。

部屋での起床に始まり、朝食、登校、授業、昼食、放課後の生徒会の仕事、寮に帰宅して夕食、入浴、就寝、一連の行動を事細かに見ていく。

見ていて眼福なので一石二鳥……って違う違う、わたしは元に戻るために彼女を観察してるのであってやましい気持ちはない。

とにかく、観察の結果、どうやら彼女は普段から魔導書を持ち歩いることがわかった。

彼女が魔導書から離れるのは、入浴中と体育の授業中の二つ。

このうち、入浴中は鍵のかかった自室に置いているようなので盗むのは難しい。

つまり、体育の授業中に盗むのがベストだろう。

身体が入れ替わって四日目の三時限目。

わたしは計画を実行した。

授業開始のチャイムがなると同時にわたしは『わたし』の教室へと大急ぎで向かった。

この時間、『わたし』の身体の都子さんは体育の授業で体育館にいる。

そして、魔導書は机の中にしまってあるはずだ。

わたしは教室に入ると真っ直ぐに『わたし』の席の前へと移動した。

机の中に手を入れ、ゴソゴソと漁ってみると、大きめのハードカバーの本のようなものが手に触れた。


「あ、あった! これだ……!」


取り出すと、それは記憶の中の魔導書と一致した。

これさえあれば、元の身体に戻ることができる。

わたしは歓喜に震えながら魔導書を抱きしめた。

用が済んだわたしは、そのまま急いで教室から出ようとした。

しかし、そのときわたしは気づいてしまった。


「あ……ま、マリアさまの、制服……」


机の上には、『わたし』の制服が畳んで置かれていた。

おそらく、ついさっきまで着ていたものだ。

触ってみると、まだほんのり温かい。


「あ、あぁ……マリアさまの温もりだぁ……」


わたしは魔導書を脇に置き、マリアさまの制服を手に取った。

顔に押し付けると、マリアさまの香りが鼻いっぱいに広がって、クラクラしそうになる。


「あぁ……マリアさま……マリアさまぁ……」


わたしはマリアさまの制服の香りを嗅ぎながら手をおまんこに伸ばした。

マリアさまの香りを嗅ぎながらオナニーをしていると、まるでマリアさまに触ってもらっているみたいでものすごく興奮する。


「あっ、あぁっ……だ、ダメですよぉ、マリアさま、そんなところ触っちゃ……」


マリアさまに触られているのを想像しながらするオナニーはいつものようにとても気持ちよかった。

わたしはさらに興奮を高めるべく、マリアさまの机におまんこを擦り付けた。

あっという間にわたしの中で快感が高まり、すぐにイッてしまいそうになった。


「あっ、ああっ、イクっ、マリアさまっ、わたし、イッちゃいますぅッ、おっ、おほおぉおぉッ!!」


身体がビクッと震え、わたしは絶頂を迎えた。

わたしの中は高揚感と陶酔感で満ちていて、これ以上ないほどに幸せだった。


「んっ、ふぅ……マリアさまぁ……すきすきっ、だいすきですぅ……」

「ふぅん、そうなのね」

「ッ!?」


そのとき、突然後ろから声がしてわたしは思わず振り返った。

そこには体操着姿のマリアさまが立っていた。


「ま、マリアさ……都子、さん……!? ど、どうして、ここに……!?」

「多分そろそろだろうと思っていたのよ。あなたが魔導書を盗みにくるのは。まさか自慰行為をしているとは思わなかったけれど」


マリアさまの手には、魔導書が握られていた。

しまった。

オナニーに夢中で取られていたのに気づかなかった。


「そ、それを……返してください……!」

「駄目に決まっているでしょう? こんな危ないもの、あなたには渡せないわ」


マリアさま魔導書を手に持ったまま教室から出ていく。

わたしはそれを慌てて追いかけた。


「私が言ったことを覚えているかしら? 自慰行為をすれば身体の知識や記憶を取り込めるって」

「は、はい……」


歩きながらマリアさまが語りかけてくる。

私はなんとか魔導書を奪い返せないか窺っていたけれど、マリアさまには隙がなかった。


「入れ替わったあの日の夜から私は何度も何度も自慰行為をしたわ。夜通し何時間もね。その様子だと、あなたもそうなんじゃないかしら?」

「それ、は……」


わたしは答えに窮してしまう。

彼女の言う通り、わたしはあれから毎晩オナニーをしていた。

あの気持ちよさが忘れられなかったから。


「流石にもう気づいているのでしょう? 自慰行為をすればするほど知識や記憶を取り込む代わりに、元の人格が薄れていくって。私は今となっては自分が葵都子だったなんて思えないほどに西条麻里亜に染まってしまったわ。あなたはどうかしら? 都子さん」

「わた、しは……」


気づいていた。

オナニーすればするほど、自分がどんどん葵都子になっていくのが。

マリアさまへの愛しさで埋め尽くされていくのが。

自我が歪んでいく中で、私は快感に抗えなかった。


「もうお互いに身体に染まり切っているわ。私は『西条麻里亜』。あなたは『葵都子』。もうそれでいいんじゃないかしら? 元に戻る必要なんてあるの?」

「あ、あるに、決まってます……!」


わたしがそう強く言うと、マリアさまの足が止まった。いつの間にか目的地に着いていたらしい。

そこは、焼却炉の前だった。


「そう。それならもう仕方ないわよね。この魔導書、葵都子だった頃は貴重で価値のある大切なものだと思っていたのよ。だからずっと肌身離さず持っていたのだけれど……今となっては危険な本だとしか思えないわ。だから……」

「ッ!? 待っ……」


マリアさまは、魔導書を焼却炉の中へと放り投げた。

瞬く間に魔導書は燃え上がり、あっという間に真っ黒に焼けて灰になっていった。

わたしは、それを呆然と見つめていることしかできなかった。


「あ、あぁ……ぁ……」

「たった今、元に戻る方法は永遠に失われたわ。これで諦めがつくかしら?」


マリアさまの声が、どこか遠く聞こえる。

わたしの頭の中は真っ白になっていた。

これじゃあ、もう元には戻れない。

じわじわと涙が込み上げてくる。


「……ごめんなさい、あなたを悲しませてしまって……でも、安心して。あなたのことは見捨てたりしないから」


マリアさまはそう言いながらわたしのことを抱きしめてきた。

暖かくて、安心する香りがわたしの心を包んでいく。


「私だってあなただったのだから、あなたの気持ちはわかるわ。私のことが大好きなだけなのでしょう? 本当は、元に戻りたかったのではなくて、私のことが欲しかっただけなのでしょう? 違うかしら?」


マリアさまに言われて、わたしは考える。

わたしは西条麻里亜として元の身体に戻ろうとしていたのか、葵都子としてマリアさまの身体になりたかったのか、どっちだったのだろう。

そういえば、いつの間にかわたしはこの人のことを都子さんではなくマリアさまとしてしか認識できなくなっていた。

わたしは、もうとっくに元の身体に戻るという気持ちを失っていたのかもしれない。


「私のことが欲しいなら、私は精一杯あなたを愛してあげる。私の全てを、あなたに捧げてあげる。だからもうこの身体にならなくてもいいでしょう?」

「ぁ、マリアさま……」


マリアさまが、わたしの身体に触れる。

今まで何度も妄想してきたマリアさまの手が、現実でわたしに触れている。

それだけでわたしの胸の中は昂っていく。


「ふふっ……すっかり濡れてる……さっきまで気持ちよさそうに自慰していたものね。ほら、どう? 気持ちいいかしら?」

「んっ、あぁっ……だ、ダメですよぉ、マリアさま、そんなところ触っちゃ……んんっ、あぁッ!」


マリアさまがわたしの股間を撫でる。

まるで夢でも見てるみたいだった。

あのマリアさまが、わたしを愛してくれている。

マリアさまのことを妄想しながらするオナニーの何倍も気持ちいい。


「……あなたはこれから葵都子として生きるの。西条麻里亜だったときの未練なんて捨てて。いい?」

「……はいっ、はいぃっ! わたしは、葵都子ですぅっ!」

「私がこうやって直接愛してあげるからもうストーカーなんてしちゃ駄目よ? 変なオカルトに傾倒するのも禁止。いいわね?」

「は、はいぃっ! マリアさま以外、なにもいりませんっ!」

「ふふっ、いい子ね。ご褒美よ」


マリアさまが、わたしの口にキスをしてきた。

舌を撫で合わせて、口内を貪るような熱いキスを。

ああ、ダメこれ。

頭の中、熱すぎて蕩けちゃう……。


「んっ、んッ、んんんほおおおぉあぉッ!!?」


ビクンッ! と大きく跳ねて、わたしはイッてしまった。

その間もマリアさまわたしのことを抱きしめてくれていて、あまりの幸福感にわたしの頭は壊れてしまいそうだった。


「ふふっ……これからは、あなたは私のものだし、私はあなたのもの。ずーっと一緒よ」

「んっ、はひぃ……マリアさまぁ……わたしは、マリアさまとご一緒になれて、しあわせれすぅ……」


今までの人生の中で、一番幸せな瞬間だった。

西条麻里亜としての人生の中のあらゆる経験を含めても、比べ物にならないほどに。

……いや、もうこんなことを考えるのはよそう。

わたしは西条麻里亜じゃない。

わたしは葵都子。

目の前にいる美しい女性の身体は『わたし』ものなどではなく、マリアさまのもの。

痩せ細った貧相で地味なこの身体こそが、今の葵都子に相応しい。

だから、これからもわたしを愛してくださいね、マリアさまぁ……。




────────




「ねえ、あれ……」

「なんであんな子が……」


わたしを見た女子生徒たちがこそこそと何かを話している。

それに対し、わたしは笑顔を振り撒きながら声をかけた。


「……ご、ご機嫌よう……」


周りの女子生徒たちは不快げな顔をして離れていった。

せっかく挨拶をしてあげたのに無視とは失礼な話だ。

前はちょっと挨拶しただけで黄色い声を上げていたのに、なんて薄情なんだろう。

……っと、いやいや、こんなことを一々考えてたらマリアさまに怒られてしまう。

わたしは気を取り直して歩みを進めて生徒会室に向かった。

扉を開くと、中では我らが生徒会長、マリアさまが佇んでいた。

今日もお美しくて、思わず見惚れてしまいそう。


「待ってたわ、都子」

「お、遅くなりました……い、今、お紅茶淹れますね……」


わたしはお湯で茶葉を蒸らし、マリアさまの愛用のカップに紅茶を注いだ。

紅茶を飲んだ瞬間、一瞬だけマリアさまが顰めるような表情になった。

もしかして、渋かったのだろうか。


「あ、あ、あの……ま、マリアさま……お味の方は……よく、なかった……です、か……?」

「え? いえ、そんなことは……ないのだけれど……ふふ、今度また、美味しい淹れ方を教えてあげるわね」


マリアさまは気を遣ったようにそう言うと優しく微笑んだ。

ああ、マリアさまはなんてお優しいんだろう。

こんな、紅茶もまともに淹れられないわたしに対しても文句一つ言わずに微笑んでくれるなんて……。

すると、いきなり生徒会室の扉が開いて誰かが入ってきた。

そこにいたのは、わたしの嫌いなあの女だった。


「真中絵麻……!」

「…………」


真中絵麻はわたしの方を一瞥だけすると、すぐにマリアさまの方を見た。

そして、悲しそうな顔で口を開いた。


「麻里亜様……どうしてですか……? どうしてこんな人間を生徒会に……」


真中絵麻はわたしが生徒会に出入りしているのが気に入らないらしい。

本来であれば生徒会役員ではないわたしがここに出入りすることはできないけれど、マリアさまのご厚意によって特別に生徒会の手伝いをさせていただいている。


「絵麻、もう何度も言ったでしょう。私が都子のことを愛しているから、彼女とずっと一緒にいたいからよ。ね? 都子」

「あぁ、マリアさま……」

「っ……!」


真中絵麻は苦虫を噛み潰したような顔でわたしたちから目を逸らす。

悔しそうなこの女の顔を見ると胸がせいせいする。


「麻里亜様、貴女はこのごろ変です! 何があったんですか!?」

「私は私よ。何も変じゃないわ。ただちょっと変化があっただけ。絵麻がその変化を気に入らないと言うなら、それは変化のきっかけに気付けなかったあなたの落ち度なんじゃないかしら?」


マリアさまに続いて私も口を開く。


「んふふ……そ、そうですよ……真中さん……あ、あなたは、わ、わたしたちのことなーんにもわかってないんですから、だ、黙っててくださいよ……」

「っ! あ、葵都子……貴女が何かしたんでしょう……!」


真中絵麻が、憎悪に満ちた顔でこちらを見てくる。

でも、その憎悪はまるで見当違いだ。

わたしは何もしてない。

それがわからない以上、この女にわたしたちの邪魔をする権利はない。

わたしは真中絵麻の真正面に立ってはっきりと告げた。


「……わ、わたしは、もうマリアさまのものなんですよ……! あ、あなたなんか、ただの邪魔な女でしかないんです……! く、悔しかったらわたしたちのストーカーでもしたらどうですかぁ……? あひゃっ、あひゃひゃひゃっ!」


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