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【小説】ボディリサイクルショップ

「ふぁ〜ぁ……ああ、暇ね」


がらんとした店の中でスマホを弄りながら、私はのんびりと暇を持て余していた。

ここは私の経営するリサイクルショップ。

日用品や雑貨など様々のものを扱っているけれど、客足はそれほどよくない。

まあ今どき中古品を買うのも売るのもわざわざこんなリサイクルショップに出向かなくても、オンラインのフリマアプリやらなんやらが蔓延っているのだから全て自宅内で済んでしまう。

私の店が繁盛しないのも妥当と言えるだろう。


「すみませーん」


すると、入口の方から声が聞こえてくる。

どうやら客が来たようだ。

私は軽く欠伸をしてから立ち上がり声の方へ向かう。

初老の少し胡散臭いおじさんがそこに立っていた。


「あの、BODY OFFという店はこちらで間違いないですか?」

「はいはい、何をお探しで?」


私が尋ねると、おじさんは少し気色悪い笑みを浮かべながら言った。


「『中古のボディ』が欲しいんですよ」


来たか。

私は表情を変えずに問い返した。


「…………型番は?」

「『37512965』」


暗証番号を間違えずに空で唱えるおじさん。

どうやら『裏』の客で間違いないらしい。


「……こちらにどうぞ」


私は奥の関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開き、中へとおじさんを案内した。

事務所と倉庫を素通りし、そのさらに奥にある隠し扉を開いて地下への階段を降りていく。

……何故全然繁盛していないリサイクルショップであるうちが潰れていないのか。

その理由は簡単だ。

『裏』のリサイクルショップで利益を上げているからである。

地下室の扉を開き、もう一つの店の中におじさんを通す。


「好きに見てってください」

「おお、これは壮観だ……」


おじさんは店の中に置かれているガラスケースの中の商品を見て、感動したような声をあげている。

ガラスケースに飾られているのは、虚ろな表現で立ち尽くす人間。

マネキンや人形ではない。

本物の人間の身体だ。

私の取り扱っている商品は、空っぽになった中古の人間の身体だ。


「あの、本当に身体を買うと僕がその身体になることができるんですか?」

「ええ。うちが取り扱ってるのはお客さんの身体です。この中にあるものなら好きな身体になれますよ」


この店では客が空っぽの身体を購入し、その身体になって帰っていく。

若い身体、異性の身体、強靭な身体などなど。

目的の身体を求めて様々な欲深い人間がここに訪れる。


「まさか、本当にこんないい趣味の店があったなんてね。ここに飾られているのは全部商品なんですか?」

「もちろん、気に入ったものがあったらどれでもお売りしますよ。お客さん、ここには誰かの紹介で?」

「ええ、まあ。知人が最近新しい身体になったと自慢してきまして。話を聞いたら僕も居ても立っても居られなくなり……」


うちの裏のリサイクルショップは一見さんお断りで、基本的には誰かの紹介がないと入れないということになっている。

まあ別に厳密に取り締まる気もないんだけど、前に一回警察が来たときに面倒なことになりかけたのでそれ以来は少し慎重に営業するようになった。

とりあえず私が設定している暗証番号を誰かに聞くなりして調べていれば客として迎え入れている。


「いやあ、よりどりみどりで迷ってしまいますなぁ……」


ニヤけづらのおじさんが少女の身体を眺めながら呟く。

ここに来る客は大概がこうした下衆な輩だ。

他人の身体を欲しがって金で買おうなんて人間はそのほとんどが碌な人間じゃない。

もっとも、そういった人間相手に商売をしている私が一番の悪魔なのは言うまでもないが。


「どうぞごゆっくり。決まったら呼んでください」


私はおじさんにそう言うと奥のカウンターの前にある椅子に座り、スマホを弄りながら欠伸をした。

さて、このおじさんはどんな身体を選ぶのやら。




────────




僕の名前は森田和重。

今年で56歳になる、独身の男だ。

建設現場で働いているのだが、ある日同僚の男が急に仕事に来なくなったと思ったら、突然僕の前に不思議な少女が現れたのだ。

少女は僕の同僚の名前を名乗った。

まさかと思いながら話を聞くと、その少女は僕と同僚しか知らないような話をいくつも聞かせてきた。

現場で事故が起きて死にかけたのに隠蔽で握りつぶされたこと、納期に間に合わせるために元請けに黙って手抜き工事したこと、一緒に風俗に行ったことなど。

そこまで聞かされてしまうと流石に信じる他ない。

この少女はあの同僚本人なのだと。

少女曰く、『とある店で新しい身体を買った』とのこと。

自分の人生に行き詰まりを感じていた僕にとって、その言葉はまるで悪魔の誘惑のようだった。

僕はすぐに少女からその店のことを教わり、今こうしてその店を訪ねている。


「うーん、どれにしようか、悩んでしまうな……」


私の前に並んだいくつもの身体。

老若男女様々な身体があるが、やはり僕が興味があるのは少女の身体だ。

だってそうだろう?

まだ若くて可愛らしい少女になってその身体を好き勝手弄ぶことができるなんて、全人類の夢じゃないか。

ちょうど僕が見ているガラスケースの中には、10代ぐらいだと思われる少女たちが虚ろな目をして飾られている。

みんな表情がないから一瞬作り物のように錯覚するが、ここにあるのは全て本物の身体のようだ。

見ているだけで興奮してきて、涎が垂れてしまいそうだ。


「ん……? あの子……」


そんな中、一人の少女が僕の目を引いた。

それは、金髪碧眼の白人の少女だった。

まるで精巧に作られた西洋人形のようなその可愛らしい姿に、僕は心を奪われた。

ガラス越しに僕は彼女をよく観察する。

絹のようにサラサラの髪、若々しい艶のある肌、日本人離れした目鼻立ち、碧く煌めく瞳。

どれをとっても僕の姿とは全く違う可憐な少女の姿がそこにあった。


「美しい……」


僕はもうこの女の子に夢中になってしまった。

新しい身体にするなら、この子がいい。

そのとき、彼女の胸元に値札がついていることに気づいた。

値札には名前も書いてある。


「シャーロット・ウィリアムズ……いい名前だ。値段は、ちょっと高いな……」


思ったよりも値が張るが、買えない値段ではない。

これだけ可憐な少女であれば妥当な金額だろう。

僕は改めて彼女の目を見て購入の決意を固めた。

意を決して店員さんに声をかける。


「あの、すみません。このケースの中の子が欲しいんですが」

「はいはい、ちょっと待ってください」


店員さんは少し気だるげに立ち上がり、ガラスケースの鍵を開けた。

中にいる少女を持ち上げて近くの椅子に座らせる。

本当に人形みたいだ。


「こちらの商品でお間違いないですか?」

「はい、大丈夫です」

「ここですぐに身体を変えていきますか?」

「あ、はい! お願いします」


僕が答えると、店員さんは少女の胸と僕の胸に手を当てた。

今から僕がこの子になるのか。

そう考えると興奮で胸が張り裂けそうだった。

すると次の瞬間、僕の視界に広がる景色は一瞬で切り替わった。

いつの間にか、僕は椅子に座って店員さんと、その隣に立つ男性を見上げていた。


「はい、終わりました」

「えっ、もう? って、この声……」


自分の喉から鳴る声が、高く響く少女の声に変わっていることにすぐに気づいた。

僕はすぐに近くにある鏡を見た。

そこに映っていたのは、先ほどまでガラスケースの中で虚ろな表情をしていた可愛らしい白人の少女が期待に胸を膨らませているような顔でこちらを見ている姿だった。


「こ、これが……僕……」


僕が動くと、鏡の中の少女も同じように動く。

心から嬉しそうに、可愛らしい笑顔を作っている鏡の中の少女。

この少女が今の自分の姿なのだとなかなか脳が受け付けてくれない。

だってこんなに可愛らしい少女なのだ。

今までの自分とは何もかもがかけ離れた存在過ぎる。

僕は自分の胸に手を当てた。

胸がドキドキしている。

その音は、いつもの身体とは違って弱々しくトクン、トクンと鳴っていた。

よく見ると、胸元に当てている手もいつもとは違った華奢で弱々しい小さな手だった。

いつもとは全く違う身体で、慣れるまでは時間がかかりそうだけど、僕の中には確かな満足感があった。


「それじゃあお会計はこちらで」


店員さんが事務的にレジ前に移動する。

僕は慌てて、元の身体から財布を取ってレジに向かう。


「あちらの身体はどうしますか?」


店員さんがその場で立ち尽くしている僕の元の身体を指差す。

この新しい少女の身体が手に入った以上もう元の身体はいらないのだけど。


「あの、いらない場合ってどうすればいいですか?」

「基本的には下取りに出すという形になりますかね。その分購入代金が安くなりますし。売りたくないという方は持ち帰ったり廃棄を希望したりすることもありますが」

「じゃあ下取りで」

「わかりました」


店員さんはこの身体の購入代金から僕の元の身体の分の代金を差し引いた。

大した金額ではなかったが。

まあ、中年の男の身体なんてそんなものか。

自分でももういらないと思うぐらいのものだったし、二足三文にでもなれば上々だろう。

僕はクレジットカードで購入を済ませた。


「はい、お買い上げありがとうございました」


ちゃんとお金を払ったことで、僕は名実共にこの身体になった。

今日から僕は、森田和重ではなく、シャーロット・ウィリアムズなのだ。


「うふ、ふふふ……」


つい笑みが溢れてしまう。

身体がとても軽い。

物理的に軽くはなっているのだけど、何よりも心が軽くなったように感じる。

僕はもう中年の枯れた男じゃない。

若々しい少女なのだ。

その事実が僕の胸を躍らせる。


「それじゃあ上に戻りますか」


店員さんが地下室を出て僕を先導する。

僕はその後に続いて階段を昇る。


「うわっ……」


普通の階段なのに転びそうになってしまった。

今までの身体と足の長さや歩幅が違うせいだろうか。

早く慣れないといけないと思う反面、こうした身体の違いが感じられるのがどこか嬉しくも感じる。

元の身体との違いを一つ感じる度に、僕は少女の身体になったことが実感できてとても興奮するのだ。


「またのお越しをー」


店員さんに見送られ、僕は店を出た。

来たときとは世界の見え方が変わっているように感じる。

実際に身長が低くなってるから見え方が違うのは当然なんだが。

僕は少女らしくスキップをしながら自宅へと帰った。


そして、その翌日。

僕はあの店を教えてくれた同僚を家に呼び、記念の打ち上げをしていた。


「えー、ではお互い新しい身体を祝しまして、乾杯!」


僕たちは缶ビールを合わせて乾杯をし、一口煽る。


「くぅー、美味い。いやあ、しかしお前がそんな身体を選ぶなんてな」


そう言ってこちらを見ているのは、大和撫子を思わせる艶やかな長い黒髪を携えた少女だった。

見た目だけなら可愛らしい少女だが、その言動は中年おやじのそれである。


「牧原さんのおかげですよ。まるで生まれ変わったようた気分です」

「おいおい、俺はもう牧原秀徳じゃねえぞ。今は綾小路佳代だ。間違えんな」

「おっとそうでしたね。すみません綾小路さん」

「わかればいいんだ、気にすんなよシャーロットちゃん」


牧原さん改め綾小路さんは気をよくしたように笑いながらビールを飲んだ。

僕もビールの喉越しを味わう。

少女たちの身体で飲み会をするこの背徳感は堪らない。


「ところでお前、その身体の記憶は読んだのか?」

「記憶を読む? なんですかそれ」


何やら僕の知らない話が出てきて思わず聞き返す。

言葉の響きだけでも非常に興味深い話だ。


「この身体の脳の中にある記憶を引き出すことができるんだよ。なに、そんな難しい話じゃない。軽く昔のことを思い出そうとすればいい。そうしたら自然と見えてくる」

「本当ですか? ちょっとやってみます」


僕は言われた通り、頭の中で昔のことを思い出そうとしてみた。

しかし、記憶にあるのは昔の僕のことばかり。

建設現場で働いていたときのことや、学生時代に暗い青春を送ったこと、アメリカに住んでいたときのことなど……。

……ん?

何か今一つだけ違う記憶が混ざっていた気がする。

僕は細い糸を手繰り寄せるように記憶を遡った。

昔はアメリカに住んでいて、数年前にパパの転勤でこの国にやってきた。

インターナショナルスクールに通っているけれど頑張って日本語も覚えて最近は喋れるようになってきた。

パパとママはどちらも私に似てとても綺麗で、私はパパとママのことが大好き。

……すごい。

自分のことではないはずの記憶が、自分のことのようにわかってしまう。

いや、記憶どころか自分の内面までシャーロットとしての人格を引き出してしまっている。

ついさっきまではシャーロットという人間は自分とは違う人間だという認識がまだあったのに、今となっては自分のことだとしか思えない。


「Amazing! I can actually read Charlotte's memories!」


わたしは自分の感動を思わず英語で話してしまった。

シャーロットは英語圏の人間だから自然に話そうとするとつい英語になってしまう。


「ふふっ、シャーロットちゃん。英語ではわからないから日本語で話してくださるかしら?」


すると、綾小路さんも気品のある礼儀正しい喋り方で話し始めた。

きっとこれが本来の綾小路さんの雰囲気なのだろう。


「Sorry……ゴメンナサイ。ワタシ、ニホンゴより英語の方がしゃべりやすくて……」

「気にすることはないですよ。シャーロットちゃんはそう喋るのが普通なのですから」

「フフッ、そうだよネ、フフフ……」


わたしと綾小路さんは二人でクスクスと笑い合った。

先ほどまでの中年おやじの飲み会が、二人の少女の憩いの空間に早変わりしてしまった。

今のわたしたちは、記憶も感情も何もかもが少女のものになっているのだ。

新鮮な感覚でとても楽しい。


「でも、シャーロットちゃん。今まで記憶を読んでなかったってことはまだ家に帰ってないみたいですね」

「家? ここがワタシの家だけど……?」

「ふふっ、シャーロットちゃん、ここは森田という男の家でシャーロットちゃんの家じゃないですよ。あなたが帰るべき正真正銘のシャーロットちゃんの家があるじゃないですか」

「あっ……!」


言われてみれば確かにそうだ。

わたしには愛するパパとママが待つ家がある。

でも……。


「このカラダ、数ヶ月間あのリサイクルショップで売られてたみたいだから、今は行方不明になってると思う。急に帰ったりしたら騒ぎにならないカナ?」

「それは騒ぎになるでしょうね。事実として、私も家に帰ったときは大騒ぎでした」

「そうだよネ。それに、今更家族のいる生活って少し面倒なことになりそうだシ、もう帰らなくてもいいような気も……」

「それはやめた方がいいですよ」


綾小路さんはわたしの考えに異を唱えた。


「私たちはまだ未成年の被扶養者ですから。税金に年金に健康保険、その他諸々の手続きを勝手に個人でやろうとすると後々面倒なことになりますよ」

「た、たしかに……」

「いくら元が成人男性でも戸籍上はただの少女ですから。今は素直に家に帰っておくべきです」


これは完全に彼女の言う通りだ。

わたしは身体だけが少女になったわけじゃない。

立場も扱いも全てが少女になったのだ。

その辺りの見通しが甘かったと少し反省する。

綾小路さんは笑って言葉を続けた。


「愛する娘が帰ってきて喜ばない親なんていないんですから、娘として堂々と家に帰ればいいんです。……たとえ中身が別人だとしてもな」


綾小路さんは口調を変えてニヤリと笑った。

そうだ、多少騒ぎになったって何も問題ない。

だってわたしは正真正銘シャーロット・ウィリアムズなんだから。


「あとこれはアドバイスだが、ここにはもうあまり来ない方がいいぞ。そのうち失踪扱いで警察の捜査が来るからな。銀行口座の金も凍結する前に下ろして現金で持っとけ」

「ふむふむ……勉強になりマス」


綾小路さんという先輩のおかげでスムーズにシャーロットの人生へと乗り換えられそうだ。


「周りの目があるうちは振る舞いには気をつけておけよ。変に疑惑の目を向けられても面倒だしな。身体弄ったりするのは誰も見てないときにしとけ。今みたいにな」


そう言うと綾小路さんは、その小さな手をワキワキと動かして、わたしの胸を触ってきた。


「わっ、ちょっと、なにしてるノ!」

「せっかくこんないい身体になったんだから俺にも触らせろよ。おお、すべすべで触り心地いいじゃねえか」


綾小路さんは可愛らしい声で下世話なことを言いながらわたしの服の中に手を伸ばしてきた。


「いや、待って、ヤメテ……!」

「なに言ってんだよ。気持ちよさそうにしてるくせによ。身体の方は正直だぜ? 本当はお前だって……あなただって気持ちよくなりたいんでしょう?」


綾小路さんは再び穏やかな喋り方になり、淫らな手つきでわたしの身体を弄んできた。


「その身体、もう触ってみたんでしょう? どうだったんですか?」

「あっ……昨日は、帰ってきてから寝ずにずっと、アソコ、さわってた……すごく、きもちヨカッタ……ンンッ!」

「あらあら……シャーロットちゃんは夜通しオナニーしちゃう悪い子なんですね」


綾小路さんのような気品のある女の子が絶対に言わないこと、絶対にしないことをしているこの状況に、わたしはとても興奮していた。

そして、そんな彼女が触っているわたしもまた可愛らしい女の子であると言う事実は、さらにそれを促進させていく。


「ほら、シャーロットちゃんのおまんこ、もうこんなに濡れちゃってますよ? たった一日で淫乱になりすぎではないですか?」

「oh……uh……ッ! ソレッきもちよすぎて……ッ!」

「さあ、イッちゃってください。私に、その可愛い姿のイクところ見せてください」

「Ahh, I’m gonna come soon, A,aaaaaaah!!!?」


身体が大きく震え、わたしはイッてしまった。

昨日からずっと触り続けていたのもあってか、あっという間に絶頂に達し、わたしはビクッビクッとその場で震えるばかりだった。


「ふふっ、シャーロットちゃん、気持ちよさそうですね。でも、シャーロットちゃんばかり気持ちよくなるのはずるいです。私にもしてください」

「……yes,わかりマシタ……」


綾小路さんに言われ、今度は向こうの身体も触っていく。

二人でお互いに淫らに触り合い、わたしたちは快感を味わい尽くす。

そのままその日は夜まで二人で交わり続けた。


そして、その翌日。

若干寝不足を感じながら、わたしは家へと帰ることにした。

銀行で下ろしたお金は一先ずコインロッカーの中に隠しておき、その身一つで家へと向かう。

記憶に従って住所を目指して移動を続け、あのリサイクルショップの近くにあるマンションにたどり着いた。

わたしの脳の中の記憶とピッタリ一致する。

ここがわたしの家で間違いない。

わたしは軽く深呼吸をしてからチャイムを鳴らした。

すると、中からやつれた様子の白人女性が出てきた。

初対面だけど、わたしはこの人を知っている。

わたしの、シャーロットのママだ。

ママはわたしを一目見た瞬間、驚愕したように大きく目を見開いた。


「ロッテ……? ロッテなの……!?」

「ママ、ただいま!」


わたしがそう言うと、ママは目に涙を浮かべながらわたしのことを抱きしめた。


「ロッテ! 無事だったのね! 本当に、本当によかった……!」


声を震わせながら力一杯わたしを抱きしめるママ。

そんなママにわたしは問いかけた。


「ママ、わたしが誰かわかる?」

「そんなの、私たちの愛する娘のロッテに決まってるじゃない!」


ママの言葉に、わたしは心から喜びを感じた。

そうだよね、ママ。

わたしは誰がどう見てもシャーロットだものね。

その中身が別人に変わっていようとも、愛する娘だという事実は変わらないよね。


「ああ、愛してるわ、ロッテ……」

「うん、わたしも大好きだよ、ママ」


わたしはママに抱きしめられながらニヤリと笑っていた。

新しい家族として、愛情を持って育ててもらおうじゃないか。

この中年の男だった僕のことをね。




────────




少女の身体というのはロリコンのおじさんたちから人気がある。

そのため多少高値でも買い取られる可能性が高く、うちでは目玉商品として扱われることも多い。


「ふふっ、今回も稼がせて貰ったわ」


スキップをしながら店から出ていくシャーロット・ウィリアムズの姿を思い出しながら私は呟いた。

ロリコンおじさんは金に糸目をつけないからいいカモ……もとい、いいお客さんだ。

もっとも、ロリコンおじさんじゃなくても若い女性の身体というのは人気が高いのだけど。


「まあ、誰だって若くて綺麗な女の子になりたいわよね」


買うのは主に男性だけど、女性が買っていくのも珍しいことではない。

生まれ持った美というものには簡単には抗えない魔力があるのだから。


「……あ、あの……すみません……」


そのとき、入り口から思わず聞き逃しそうな弱々しい声が聞こえてきた。

どうやらお客さんが来たようだ。

声の方に向かうと、野暮ったい長い髪に地味な服といういかにも垢抜けない女の子が立っていた。

大きな眼鏡をかけたその顔立ちも、お世辞にも美人とは言えないぐらいのもので、表情は暗い。


「何かお探しですか?」


私が尋ねると、女の子は大きく深呼吸をしてから言った。


「……ち、『中古のボディ』……ください……!」


どうやらこの子は『裏』のお客さんだったようだ。

容姿に恵まれない女の子が別の身体を求めてやってきたとかそんなところだろうか。

世知辛い話だ。

これがルッキズムってやつだろうか。

まあ私にはそんなのはどうでもいいこと。

お金さえ払ってくれれば、どんな人間だろうとお客さんなのだから。




────────




あたし、山口恵子の20年は散々なものだった。

一重まぶたに厚ぼったい唇に大きな鼻。

同級生からは容姿を笑われ、いつも日陰で過ごしてきた。

恋愛経験なんて当然あるはずもなく、青春と呼べるような生活はあたしにはなかった。

暗い学生生活はあたしの性格までも暗いものにし、いつしかあたしは孤独な不細工女に成り果ててしまっていたのだ。

でも、そんな毎日からはもうおさらばだ。

今日、あたしの人生は変わる。

この、身体のリサイクルショップで。

ネットのオフ会で会った人から教わったこの店の話。

神様っているんだと本気で思った。

店員に暗証番号を伝えると、あたしは地下の部屋に通された。

そこでは、ガラスケース中にさまざまな身体が展示されていた。

中には美男美女の身体もあり、今のあたしからすれば喉から手が出るほど欲しい身体だった。


「それじゃあ欲しい身体が決まったら呼んでください」

「あっ、はい……どうも……」


店員は奥の方で椅子に座ってスマホを触り始めた。

こんな店をやっているのに、なんだか普通の人でちょっと拍子抜けしてしまう。

もっと魔女みたいな恐ろしい人を予想していたけど、なんか普通のアルバイトみたいな雰囲気だ。

まあ、店員のことなんて今はどうでもいい。

それより、今はあたしの新しい身体を探す方が先決だ。

とりあえずあたしは美人な男と女をそれぞれ見ていく。

虚ろな表情で佇む美男美女たちの姿を見てると、こんな奴らでも今はあたしに選ばれる側の存在なんだって思えて優越感に浸れる。

よさそうな美形の身体はいくつもあった。

でも、そのどれもがかなりの高値であたしには手が出せなかった。


「もうっ……なんで美形ってだけでこんな高いの!?」


まるで人間の価値はその顔だと言われてるようで腹が立ってくる。

いや、落ち着こう。

こんなところでイライラしても仕方ない。

とにかく今日はあたしの人生を変える大事な日なんだ。

あたしのような貧乏学生が買える身体の中から少しでもいい身体を探さないと。


「あ、あの身体安い……」


すると、見て回っていた身体のうちの一つにとても安い身体があった。

地雷系?みたいな服を着た可愛い女の子だ。

ぱっちり二重で目が大きくて、世間で持て囃されているような可愛い女そのものだった。

値札には『絵崎舞華』という名前と80%オフという異例の割り引き価格が書かれていた。

こんなに可愛いのになんで?

あたしは店員に聞いてみることにした。


「……あっ、あの……あの身体なんですけど……」

「ああ、この身体ですか。なかなか売れなくて割り引きしてるんですよね。このまま買い手がつかなかったら廃棄になるかもしれないですけど」


廃棄だなんてもったいない。

あたしの財布でも十分手が届く値段だし、まさに渡りに船だ。

この可愛い身体、あたしが有効活用してあげよう。

この売れない身体だってきっと喜ぶだろう。


「あっ、あの! あたし、この身体買います!」

「え、本当ですか? ありがとうございます」


店員はそう言うとガラスケースの中から女の子の身体を取り出して椅子に座らせた。

そして、その胸に手を当てながらあたしの胸にも手を当ててきた。

ついに、あたしが違う身体になれる。

あたしの人生が変わるんだ。

すると次の瞬間、あたしの目の前の景色がガラリと切り替わった。

いつのまにかあたしは椅子に座らされていて、あたしの前にはこちらに手を伸ばしている店員と、その隣に立ち尽くす地味で垢抜けない女がいた。

あれは、あたしだ。

ずっと嫌いだったあたしの身体を、今あたしは第三者視点で眺めてる。

ってことは……。


「はい、終わりました」

「……っ!」


あたしは衝動的に鏡の方を見た。

そこには、元のあたしとは似ても似つかない、誰が見ても美少女と言えるような女の子が映っていた。


「や、やった……! あたし、こんなに可愛くなれた……!」


あまりの感動に目から涙が溢れ出していた。

今まで鏡を見るのが嫌いだった。

でも、こんなに可愛い自分の姿が見れるんだったらあたしはこれからきっと毎日鏡を持ち歩いては眺めることになるだろう。


「こっちの身体はどうしますか?」


店員が元のあたしの身体を指差しながら聞いてくる。

地味で垢抜けない不細工な女の抜け殻。

もはやあんな身体にはなんの未練もない。

というか、もう見たくもない。


「……いらないんで好きにしてください」

「それじゃあ下取りという形で引き取らせてもらいます。ではあちらでお会計を」


あたしは抜け殻の持っていた財布だけ引ったくるとそのままレジに移動した。

もうあの身体は金輪際視界に入れたくない。

新しい身体を手に入れた今、あの身体はもうあたしにはなんの関係もない身体なんだ。

『山口恵子』としての人生はもう終わって、これからのあたしには『絵崎舞華』としての人生が待ってるんだから。


「♪〜」


あたしは会計を済ませると、ルンルン気分で店を出た。

出るときに店員が何か言っていたけれど、気分がふわふわしていてあまり耳に入らなかった。

街を歩いていると、周りの人たちがあたしのことを見ているような気がする。

今までだったら陰口でも叩かれてるんだろうなって思ってたけど、今はみんながあたしに見惚れてるようにしか見えない。

ああ、買ってよかったこの身体。

あたしは薔薇色の人生の幕開けを感じていた。


それから数日間、あたしは絵崎舞華としての人生を堪能していた。


「ねえ、すっごく可愛いじゃん、それどこの服? めっちゃ似合ってんね。てかRAINやってる?」

「あはは、舞華カワイイでしょ? この服すごく気に入ってるんだよー! でもRAINは教えてあげなーい!」


外を歩けばナンパは日常茶飯事だった。

でもそれって舞華がカワイイってことだから嫌な気はしないよね。

あれから過ごしてるうちになんか自分の性格が明るくなってきたように感じる。

ていうか、元の自分とは別人みたいになっちゃった。

これって、心の中まで舞華になったってことかな?

まあ、舞香の前の性格なんてダサすぎて終わってたから今の性格になれてよかったけど。


「ねえそこのあなた! 読者モデルに興味ないですか?」

「え? 舞華に言ってる? うそ、やば〜! 舞華モデルになっちゃうの!? それってサイコーじゃん!」


ナンパの次は読モのスカウト。

舞華って本当にすごい。

みんな舞華に夢中で最高の毎日だ。

やっぱり美少女の身体って得だよね。

こんなの、不細工な身体で暗く生きてるやつみんなバカみたいに思えてくる。

舞華は最高の人生を手に入れられたんだ。

そう思っていたそのとき。


「舞華! 探したぞ……!」


突然後ろから舞香のことを呼ぶ声が聞こえてきた。

声の方見ると、男の人が肩で息をしながらこちらを睨んでいた。

あれ?

あの人見たことあるような気がする。

たしか……舞華の元カレ?

ん?

元カレってどういうこと?

舞華は誰かと付き合ったことなんてないし……。

いや、でも頭の中にはあの人と付き合ってたときの記憶がある。

なんか顔はイケメンだったけど話してみると意外と冴えない人で、それなのにやたらセックスしたがるのがうざったかったし、なんか付き合ってるのも飽きてきたから捨てたんだ。

これってもしかして、あたしがなる前の舞華の記憶?


「お前……俺から逃げられると思うなよ……お前は、俺のことめちゃくちゃにしたんだからな……」


そう言うと男の人は懐から銀色に光るナイフを取り出した。

な、なにあれ!?

完全にやばい人じゃん!

目もなんかイッちゃってるし!


「ちょ、ちょっとやめてよ! 舞華、アンタなんて知らないし!」

「ふざけたこと言ってんじゃねえ! お前が俺にしたこと忘れたとは言わせねえからな!」

「そんなこと言われても舞華は本当に知らないもん! アンタと付き合ってたのは前の舞華で今の舞華じゃないんだから!」

「ごちゃごちゃと訳のわからねえこと言ってんじゃねえぞ舞華ァッ!」


男の人は舞華のこと睨みつけながらナイフを持って迫ってきた。

本当なのに。

あの人に恨まれてるのは前の舞華であって今の舞華じゃないのに。

でも、周りから見たらどっちも舞華なんだから狙われるのは舞華に変わりないってこと?

なにそれ!

そんなの聞いてないんだけど!


「舞華ァァッ!」

「ひっ!?」


男の人がナイフを持って走ってくる。

やだやだやだ!

この身体には薔薇色の人生が待ってるんだから!

こんなところで終わるなんて……。

目の前に男の人が迫ってきた瞬間、舞華の脳裏に過ったのは、この身体についていた売れないセール品の値札だった。




────────




『先ほど、街中で20代の女性が刃物で刺される事件が起きました。被害者は絵崎舞華さん、病院に搬送されましたが、その後死亡が確認されました。犯人と思われる男はその場で警察に取り押さえられました。警察は痴情のもつれと見て捜査を続けています』


なんとなく店の中でテレビを眺めていると、見知った顔写真が映っていた。

それは先日買われていった絵崎舞華の顔だった。


「あらあら、殺されちゃったのね、あの子」


元々厄介なストーカーに悩まされてるって本人が売りにきた身体だったから、誰かに買われたらこうなるかもとは思ってたけれど。

流石に問題がある身体を高い値段で売りつけるのは気が引けたからずっと割り引き価格で置いてたけど、そんな見えた地雷みたいな身体はみんな警戒するのか全然売れなかった。

だからこの前の子が買ってくれたときは在庫処分が済んでラッキーと思っていたのだけど。


「こんな結末になると少し可哀想だったわね。まあ、こっちが説明しようとしたのにあの子全然聞いてくれなかったわけだし、仕方ないわよね」


見送りのときにストーカーについて一応忠告しようとしたのだけど、美少女になれてよっぽど浮かれていたのか、あの子はろくに話も聞かずに帰ってしまったのだ。

まあ欲深い人間には妥当な末路だったとしておこう。


「それにしても、最近売り上げがいいわね」


この数日間で何人もの身体が売れている。

店としては繁盛していてありがたい話だけど、売れすぎていると商品が足りなくなって困る。

下取りとして買い取ってる身体はどれもこれも粗悪品で売れるようなものではないし、そろそろ入荷の必要性があるかもしれない。


「ごめんください。店員さんいますか?」


すると、入り口から声が聞こえてきた。

声の元へ移動すると、そこには見知った人物が立っていた。


「いらっしゃいませ、お客さん。またいらしたんですか」

「はい。この身体もそろそろ飽きてきたので」


そう言って私に微笑んできたのは、30代後半ぐらいの美人女性。

名前は菱川沙苗さん。

うちの店の常連客だ。


「いつも贔屓にしてもらって感謝してます」

「いえいえこちらこそ。こんなリサイクルショップは他にはありませんから」


上品に笑う沙苗さん。

もちろん、この沙苗さんの身体は元々のこの人のものではない。

さらに言えば、この前の身体のその前の身体も、そのまた前の身体だって本人の身体ではない。

中古の身体を買っては楽しみ、飽きたら売って別の身体を買うという人生の乗り換えを何年にも渡って楽しんでいる妖怪のような人だ。


「それで、今回はどのような身体をお探しで?」

「そうですねぇ……前回はギャルでしたし、その前はスポーツ娘でしたから、また違うタイプの身体になりたいですが……」


地下室に降りながら話を聞く。

この人はいろんな人生を楽しむのを趣味にしているらしく、毎回違う雰囲気の身体を選んで買っていく。

他人の人生を奪って楽しむのが趣味なんて悪趣味な人間だけど、お客さん相手なのでもちろんそんなことは言わない。

地下室につくと、沙苗さんは色々吟味しながら身体を見ていた。

しかし、そのお眼鏡にかなう身体はなかなか見つからないようで、どうにも渋い表情をしていた。

最近身体の売れ行きが良かったのがここで響いてしまった形だ。

せっかくのお客さんなのにこれでは困る。

するとそのとき。


「邪魔するぜ。店員いるか?」


スーツ姿の男が地下室の階段を降りてきた。

この男はうちのお客さんの一人だ。

と言っても、身体を買う方ではなく売る方のだけど。


「お客さん、ちょうどいいところに。最近売れ行きが良くてそろそろ新しい身体を仕入れたいと思っていたんですよ」

「そりゃこちらとしても好都合だ。お前んとこの商売には俺らも助けられてるんでな」


男は、手を縛られて口を塞がれている女性を連れていた。

女性は目に涙を浮かべて震えている。


「この女、うちのケツモチしてる店の風俗嬢なんだが、店の金ちょろまかして男と海外逃亡しようとしやがったんでな。その落とし前として文字通り身体を売ってもらおうって話よ」

「それは大変でしたね」


ヤのつくお仕事をしている人間を舐めると痛い目に遭うというのは常識だと思っていたけど、意外とわかっていない人間も多いらしい。

私も彼らと関わることがまあまああるので気をつけなければいけない。

すると、話を聞いていたのか沙苗さんが近づいてきた。


「あのう……もしかしてそちらの身体は売りに出されるのでしょうか?」

「ん? そうだがそちらは?」

「こちらの方はうちをご贔屓にしてくださってるお客さんですよ。あなたの売った身体を買ったこともあって。ほら、あの借金返せなくなった家の娘の……」

「え!? あの身体ってこの方が売ってくださったんですか!? あの身体すごく良かったんですよ。可愛い容姿なのにまだ処女で開発のしがいもあって……。本当にありがとうございました!」

「おお、そうかい。売った俺としても喜んでもらえて何よりだ」


思わぬ出会いに交流する二人。

和やかな会話だけど、その内容は非人道的すぎて笑ってしまう。


「それで話を戻しますが、この身体をもし売られる予定なのでしたら、是非買わせていただきたいんですが……」

「へえ、そんなにこいつが気に入ったのか? こちらとしちゃ構わないが……売ろうとしてる俺が言うのもなんだが、こいつ金に目が眩んでヤクザのシマ荒らすようなクズだぞ?」

「いいんです。そういう性悪女になってみるのもスリリングで楽しそうだなと思ったので。あ、もちろんあなた方に迷惑はかけませんよ」

「なるほどね。世の中物好きってのがいるもんなんだな。いや、余計なこと言って悪かったな。俺としちゃアンタみたいな人にならむしろお願いしたいぐらいだ」


あっという間に売る側と買う側で話が進んでしまった。

今まさに売られようとしている女性からしたらこの会話は恐怖でしかないだろうなと思った。


「あの、お二人で話を進める前に私を通してほしいんですけど」

「あ、ごめんなさい勝手に」

「おう、さっさと買い取ってくれや」


私がこの女性の査定額を提示すると、男は了承して契約書にサインをした。


「いつも通り、後日現金でお支払いしますので受け取りに来てください」

「おう、頼んだぜ」

「では、もうこの身体は売りに出されるってことでいいですか? だったらすぐに買いたいんですが」


沙苗さんが期待に胸を膨らませるような声で言ってくる。


「すみません、もう少しだけお待ちください。まだ処理の方が済んでないので」

「処理?」


頭に疑問符を浮かべる沙苗さんを横目に、私は手を縛られてる女性に近づく。

この身体はまだ売り物じゃない。

だって、まだ中身があるのだから。

うちが取り扱ってるのは中身のない空っぽの身体。

ではこの中身はどうするのかというと。


「ふふっ……」

「んーっ! んーッ!」


女性は首を振って必死に逃げようともがいている。

本能的に自分がどうなるのか悟ったのかもしれない。

しかし、今更何をしてももう遅い。

あなたはもう私の餌なのだから。

私は女性の胸に手を当て、そしてその中身を引き摺り出した。

半透明の女性の魂が宙に浮かび上がる。

そして、私は大きく口を開けた。


「いただきます」


バクン、と一口で女性の魂を頬張る。

そのままモグモグと咀嚼していく。

若い女性は甘みが強い。

でもこの女性のような性格の悪い人間は少し酸味が混ざっていて、それがまたフルーツのような味わいで堪らない。

最後の一欠片まで堪能してから、ごくりと飲み込む。

すると、女性は糸が切れたように床に倒れ込んだ。

その瞳は虚ろでもう何も映していない。

空っぽの身体の出来上がりだ。


「ごちそうさまでした」

「た、食べちゃったんですか?」


私の食事シーンを初めて目撃した沙苗さんは目をぱちくりさせてビックリしている。


「アンタ知らなかったのか? この店員は人間の魂食って生きてるバケモンなんだよ」

「そ、そうだったんですか。普通の人間ではないとは思ってましたが……」

「バケモンとは人聞きが悪いですね。見ての通り普通の女の店員ですよ?」

「よく言うぜ。その身体だって自分が魂食った人間の身体使ってんだろ?」

「ふふっ……あんまり余計なこと言うとあなたも食べちゃいますよ?」

「おお、怖い怖い」


男は冷や汗を浮かべて私から距離を取っている。

まあ、この男は使える人間だから今はまだ食べる気もないけれど。


「えっと……食べ終わったということは、その身体はもう空っぽになったんですよね? ということは、もう買えるということでいいですか?」

「はい、お待たせしました」


私はそう言って沙苗さんの胸と女性の胸にそれぞれ手を触れる。

すると、一瞬で沙苗さんの表情が虚ろなものに変わり、女性の目がパチリと瞬きをした。

私は女性の手の紐をほどき、口を塞いでいたガムテープを剥がす。


「はい、終わりました」

「ありがとうございます。わぁ、この身体も悪くないですね。主観の第一印象もまずまずです」


立ち上がってその場でくるりと回りながら女性は嬉しそうに笑う。

さっきまでの恐怖に怯えてた顔と同じだとは思えないほどだ。


「さて、じゃあ人格の方も………………アハッ、これ確かに性格悪いわ。こんなんじゃあヤクザに捕まって化け物に魂食べられる最期も因果応報って感じじゃない?」


女性は上品な雰囲気から一変して軽薄で性格の悪い風俗嬢の雰囲気になった。

流石は常連。

人格の切り替えも早い。


「へえ、こうやって俺の売った身体が使われてんのか。初めて見たが面白えな」

「アンタには感謝してるわ。いや、この身体的には恨みはあるだろうけどさ。ま、アタシにはもう関係のない話だしね」

「クックッ……その態度あのクズ女そのものだ。アンタ、なかなか似合ってるぜ」

「せっかくだからアタシのこと抱いてく? アンタだって見た目だけならこの女のこと評価してたんでしょ?」

「そいつは嬉しい申し出だが、まだ仕事があるんで遠慮させてもらうぜ」

「あら残念……それじゃあその辺の男でも引っかけて遊んでこようかな」


男と女性は、さっきまでの売る者と売られる者という関係から出会ったばかりの知り合いという関係に早変わりし、和やかに交流している。

うちの店でこう言ったコミュニティが生まれていくのはなんだか変な気分だ。

その後、会計を済ませた女性と男を外に見送った。


「それじゃあまたね。この身体に飽きたらまたいい身体をよろしくー!」

「金の方頼んだぜ。それと、近いうちにまた何人か売りに来ると思うわ」

「またのお越しをー」


二人はそれぞれ歩いていき、リサイクルショップには私一人が残された。

私は一息ついて椅子に腰を下ろす。

フリマアプリも盛んなこんなご時世だというのに、なんだかんだ繁盛しているうちのリサイクルショップ。

元々は魂を食べる名目のためだけに始めた店だったのに、今となっては商売として安定してお客さんにも支えられて、いつの間にか経営者として楽しくなってきてしまった。

真っ当な人間なんか全く来ない店だけど。

でも、悪魔の自分にとってはこんな店がちょうどいいのかもしれない。


「ふふっ……」


これを読んでいるあなたも、うちの店で身体を買って行きませんか?

どうせ中古の身体なのでお安くしておきますよ。


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