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《後編》桑山千雪「好きって言ってもらえるように、プロデューサーさんのアナル開発がんばっちゃいます♪」《合計22,000文字》

 千雪にとっては単なる触診ぐらいの気軽さなのかもしれないが、前立腺は女であったころの子宮の名残。圧力がかかることで射精時の快楽を生じさせる場所だ。そこに直接触れられる時の本能的な危機感は、金玉を握られている時のそれを優越する。自分で見たことも触ったこともないけれど、そこが人体の急所であると直感できる。全身の毛がぶわりと逆立ち、解放してもらうために何もかもを差し出したくなる。つまりは、男が女に優越する上背やら筋力やらの生物的なアドバンテージを全て失ったに等しい。  犯す側ではなく、犯される側。鳴かせる側ではなく、喘がされる側。手玉に取る側ではなく、手玉に取られる側。“なでなで♡”の掛け声に合わせて動くたった二本の指によって、俺の中に根付いていたオスの自覚がなすすべなく削ぎ落とされ、新たに穴として耕される立場が無理やり上書きされてゆく。 「しらないっ♡ こん、なのっ……♡ しらなっ♡ おッほォっ……♡♡ ぉ、っぐぅ〜〜ッッ♡♡」 「わ、わ、すっごい反応♡ ふふっ♡ かわいい〜〜♡ かわいいですよ、プロデューサーさん♡ こう? ここぐっ♡ぐっ♡ってされるの弱いんです? お手々に力入らなくなっちゃってますよ〜♡」  せめて声を抑えなければならないと頭ではわかってはいても身体が言うことをきかない。それどころか、体勢を維持することすら難しい。前立腺を迂回する形で周りの腸壁を押し込まれると、形容しがたいもどかしさがゾワゾワと背中に広がって、身体を支えている四つん這いの四肢から力が抜けていくのだ。 「ふふっ♡ いいんですよ、お膝の上に寝転がっても♡ はい、“ごろにゃ〜ん”♡」 「〜〜〜〜っっ♡♡♡」  掛け声と同時に指の腹が食い込んだ瞬間、前足が勝手に折りたたまれてしまい、べったりと顔をソファにつける格好になる。膝だけを立ててじたばた悶えるこの姿勢は、まさに“ひれ伏す”という表現がぴったりな格好だ。好きな女性の膝の上でビキビキにおっ勃てたチンポは捨て置かれたまま、ひたすらにケツアナをほじくられて土下座するオス。面をあげられないくらいに恥ずかしいのか、恥ずかしいから面があげられないのかわからない。しかし、そうやってソファで口を塞いで喘ぎ声を誤魔化そうとする真似を、千雪が赦してくれるはずもなかった。俺の尻穴をほじくりまわして開発を行う時の彼女は、普段内側に押し留めている我儘の枷を外してしまうきらいがあるからだ。 「こ〜ら、ねこちゃん? お顔伏せちゃめっ♡ですよ〜♡」  くにくにっ♡ ぐ〜ぅにぐにぐに♡ 「ほら、“にゃ〜ん”って♡」 「ぇ、ぁ、ぇ? 〜〜〜〜ッッ!?♡♡」  ぐぅぅ〜〜に♡ ぐにぐにぐに♡ 「“にゃ〜〜ん”♡♡」 「〜〜〜ッッ♡♡ ち、ゆっ♡ や、めっっ♡♡」  ぐにぐにぐにぃ〜〜っっ♡♡  ぐぅ〜〜にぐにぐにぃっ♡♡ 「ん゛ぃっ♡♡ あ゛っ♡ あ゛〜〜ッッ♡♡ じぬッ♡ ぢぬぅッッ♡」 「にゃんにゃん鳴きしてください♡ “にゃ〜ん”♡って甘えた声で♡ 鳴いてください♡」  集中砲火の前立腺ぐりぐりを受けて、身体がじたばたと暴れ踊る。首を締められて命の危機を感じている時の悶えようとでもいえば、その必死さが伝わるだろうか。暴力的な快楽がチンポの根本の奥の奥を基点として爆発を起こし、オスの自我へと繋がる回路がぱちぱちと弾けて焼かれていく光景が瞼の裏に映写される。  もしこのまま前立腺の中にある男らしさが千雪の指によってすり潰されてしまったら、千雪とセックスしたいと思う気持ちすらなくなってしまうかもしれない。狂いかけの頭でもそれだけはどうしても譲ってはいけない一線だということは理解できた。生存本能がフル回転し、もっとも助かる可能性の高い方法を秒速で弾き出す。その答えはいたくシンプルなものだった。 「っ、ぉっ♡♡ おぅ♡♡ に゛ゃ゛ぁ〜んっっ♡ に゛ゃっ♡ に゛ゃぁ〜〜〜ん♡♡」  媚びる。前足を畳んで尻をふる俺は今、まさにご主人様のご意向に従うことで手心をねだるマゾペットそのものに成り下がった。自ら膝を折って男のプライドを捨て去るだけでなく、いやらしく尻を左右に振ってびたんびたん♡とチンポを揺らし、前立腺の命乞をねだる媚び泣きを披露する。 「ふふっ♡ “にゃ〜〜ん♡”」 「お゛っ♡ ぉぉッ♡ に゛ゃっ♡ に゛ゃぁんッ♡」 「上手上手〜♡ おにゃんこちゃんになるの上手〜♡ “お尻の穴ほじくられるの、きもちいいにゃ〜ん♡” “発情期のマゾにゃんにゃん声でちゃうにゃ〜ん♡” ふふっ♡」  快楽への怖気と無様を晒している恥ずかしさとで、頭のてっぺんまで鳥肌が立つ。男らしく千雪とセックスをする一縷の可能性を守りたいがために、オスらしさをかなぐり捨て淫乱なメス猫に徹して泣く。するとどうだ、鳴けば鳴くほど、ビキビキにおっ勃ったチンポが自分が生殖器であることを忘れてゆく。太ももをだらだらと伝う腸液とローションの合いの子がこの身体にとっての愛液であり、快楽を貪るのは二本の指をすんなりと受け入れながら乱暴にかきまぜられて悦んでいる尻穴の務め。コンドームをただつけられただけで捨て置かれている肉竿はメス猫の尻尾、あるいは穴のいいところをほじられるとぴょこぴょこ揺れて反応する“アナル感度測定器”に過ぎない。 「にゃっ♡ に゛ゃっ♡ に゛ゃぁ゛んっ♡」 「腰浮いてきましたよ♡ もうイキたい?」 「に゛ゃぉぉんっ♡ にゃぁんっ♡」  窓が空いているというのに、声量を絞ることができない。ならばせめて発情期の猫だと間違われるように、俺はいっそ甘く鳴くように徹した。すると快楽に対して素直に反応を返した――“穴”の快楽を肯定してしまった――ことで、みるみるうちに絶頂感が押し寄せてくる。  尻穴で射精させられる時の感覚。それはチンポを扱く時のような、種付欲求から生じるものではない。むしろその真逆でこのまま睾丸の中にたっぷり詰まった精液を一滴残らず体外へ排出させられてしまったら、俺の身体の中から男性らしさが跡形もなく消え失せてしまう――その結果、俺はもう男ではいられなくなり、かといって女になれるはずもなく、男娼よろしくマゾメスに堕ちてしまうのではないか。そんなことを本気で信じ込んでしまいそうになるほど、男らしさを迫害してくる危うい興奮だ。 「お金玉さん、きゅぅ〜〜っ♡って持ち上がってきてますよ〜♡ “マゾメス”にされちゃうの、想像しちゃった?」 「〜〜ッッ♡♡ ふ、に゛ゃっ♡ に゛ゃぁんっ♡」  千雪の口から放たれる“マゾメス”という蔑称の破壊力たるや。あの誰に対しても心遣いと敬意を忘れない、心優しい女性から見下されているという衝撃が頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱す。前立腺への刺激が体のスイッチだとすれば、“マゾメス呼び”は心のスイッチだ。俺が今までに出会った中で掛け値なしにもっとも心優しい女性から、性的魅力皆無な劣等種呼ばわり。その悲痛な痛みがさらなる興奮の呼び水となる。 「に゛ゃっ♡ に゛ゃッ♡ いぐっ♡ いっっぐっ♡ いぐっっ♡ いぐっ♡♡」 「くすっ……♡ なら、もうセックスもできませんね……♡」 「ッッッ!?!?♡♡」 「せっかくがんばってお精子さん溜めたのに♡ 筆おろししてもらえると思って、す〜っごくよわっちくなったのに♡ プロデューサーさん、あきらめちゃうんだ……♡ くすっ♡ あ〜ぁ、悲しいな〜♡ 私、どんなに取り返しのつかないマゾさんでも筆おろししてあげたかったのに♡ おちんちんの使えない、“メスにゃんこ”ちゃんじゃなぁ……♡」 「や゛っ♡♡ や゛だぁっ♡ やだぁっ♡♡ せっぐしゅっ♡ せっぐじゅでぎッ♡ っぐ♡♡ でぎるっ♡ でぎるぅっ♡」 「ほんと? できる?」 「できっ♡ でぎるッ♡♡ できるぅっ♡」 「え〜説得力ないぞ〜♡ マゾメス〜♡」 「ぅっっっ♡♡♡」  好きな女性と心と身体で繋がることができるならと、恋心を貢ぎ、射精を我慢し、男性らしさまで手放したのに。一縷の望みであったセックスまでも取り上げられようというきわっきわの意地悪に涙腺が緩む。仮に今みっともなく精液を漏らしてしまったら穴をほじられて絶頂するめしべとして、ペニスにセックス不適格の烙印が押されてしまう。それだけは絶対に絶対に避けなければならない、と死ぬ気で尻穴を締め上げる。 (ちゆきと、セックスしたいっ……♡ したいっ、したい、したいしたい〜〜っっ……♡♡ やだっ、やだよ、ちゆきぃっ……♡ こんなに、こんなにすきなのにっ♡ 去勢しないでくれっ♡ まだ、男でいさせてくれぇっ……♡♡) 「くすっ♡ ほらほら、がんばれ〜、おとこのこ〜♡」  俺はどうにかして抗議の意志を伝えなければと必死にじたばたとあがいた。身体は悦んでいるように見えるけれど、心の底から千雪とのセックスを望んでいるのだと。千雪の性的対象から外されてしまうことだけはどうしても嫌なのだと。気持ちを言葉に訴えようとするも、口から吐き出される音は甘ったるい嬌声ばかりで、音がちっとも意味を持とうとしない。にもかかわらず、懸命にもがもがと喘いで何かを訴えようとしている姿を見かねたのか、それとも単に鳴き声が煩わしくなったのか。ともかく千雪は指の一本を口内に差し込んで呼吸孔を塞ぐ形で、俺の意思表示の手段を封じた。筋力も体格も優れていても急所を直接抑えられているだけで、肉体的な強弱などあっけないほどたやすく逆転する。必死にアクメの瀬戸際で踏ん張る最中に、呼吸まで奪われた俺は本気のパニックに陥ってしまう。 「ふふっ♡ もう、プロデューサーさんったら♡ 大好きなこれされたくって、わざとおっきな声でにゃんにゃん鳴いちゃったんですよね?」 「〜〜っ、う、ぅぅっ♡♡ ん〜〜、む、ぅ、ぅぐっ……♡♡」 「そんないけない子はこうです♡ えいっ♡ えいっ♡」 「ん、むぅぅっ!? ぐっ、ふ、んむぅ…ッ♡♡ ぅ、ぉ、ぇがっ……♡」  軽やかな掛け声を耳にしたその直後、脳の何割かが強制的に機能を停止させられたかのようなホワイト・アウトを起こした。一拍遅れて前立腺に響き渡る、筋肉のただ一点を狙いすましてこむらがえりが起こったかのような鈍重な衝撃。男の自我を無視して強制的にチンポの噴火を促すアクメ・マグニチュードを“桑山千雪”に強いられているその事実が、俺を二重に狂わせる。 「っ、ぅ、ん、むぅぅっ♡ んぐ、ぉっ……♡♡」 「うん、うん……♡ きもちいいね、きもちいい、きもちいい……♡」  ぐに、ぐにぐにぃ……♡ ぐにぐにぃ……♡  衝撃を逃がそうと腰が浮きかけるのに合わせて指の腹が腸壁越しのくるみ大に沈みこみ、俺の身体はなすすべなく千雪の膝に縫い留められる。アナル開発の初日なんかは四つん這いになるだけで顔から火が出るぐらい恥ずかしかったのに、たった数ヶ月やそこらで俺が十年以上かけて培ってきた射精のあり様は跡形もなく変質してしまった。  行儀よく前足を畳み、尻だけを高く掲げる無様な格好で前から後ろから穴をかき回されて鳴く。これが無理やり強いられたのならばまだ擁護する余地があったろうが、千雪との甘マゾセックスの誘惑に誑かされ“仕込まれる”ことを望んだのは他でもない自分なのだから救いようがない。俺は女の子の夢を応援したいだのと語りながら、我欲に負けてその育むべき夢の巣でオスらしさを奪われる開発の虜になってしまった。プロデューサー失格どころか、大人の男として最低だ。彼女らの夢を足蹴にしながら己の変態的な性欲を満たしている醜悪な本性をもし他のアイドルたちに知られてしまったら、変態という誹りを受けることなどなまぬるい、関係性の修復が不可能なほどの決定的な亀裂が入るだろう。苦楽を共にしてきた彼女たちであっても、いやかえって苦楽を共にしてきただけに、今までの信用が上っ面だけのものだったと明るみに出た時の失望の振れ幅は計り知れない。 「っ、ぁ、やだっ……♡ やだぁ……♡ まって、くれぇっ……♡ ま、まってぇ……♡」 「ぁ……出てきた出てきた……♪ んー? 何を待ってほしいんです? それとも、誰に待ってほしいんです?」  ぐ〜に、ぐにぐにっ……♡ こねこねこね……♡  “誰を”の一言で、脳裏に浮かぶ顔が鮮明になる。  表情が抜け落ちためぐる。裏切られたと大泣きする恋鐘。凛世なんかは、俺がまともなセックスを放棄する身体に望んでなった事実に対して、殿方の責務を放棄したと見損なうだろうか。甘奈や、冬優子や、透でさえ、きっと見る目は百八十度変わる。口に出されないでも“こんな奴に”なんて蔑視が突き刺さり、ただでさえ息苦しいのに罪悪感がさらに呼吸を浅くする。  こねこねこね♡ ぐにぐにぐにぐに♡ 「ごめんっ、ごめっ、樹里っ、雛菜ぁ……♡」 「それから?」 「さく、やっ……♡ ひおりぃっ……♡」 「それから?」  口にしたそばから、俺に幻滅の視線を向けながらひとりまたひとりと俺の頭の中を去っていく影たち。  肺にうまく息が取り込めない。頭に酸素がまわらない。ぼんやりと視界が霞む。ふわふわと快楽の上で揺蕩っている身体だけが気持ちいい。気持ちいいけれど、ただ気持ちいいだけ。まるで陸地が見えないほど遠く沖に流された浮き輪の上で、ひとり波に揺られて微睡みかけているかのようだ。身体だけ悦んでいても、えもいわれぬ不安感が正気を侵食してきている。  ぐぅ〜〜に、ぐにぐに……♡  ぐに、ぐにぐにぐにっ……♡ 「っぐ、ぁ、は、づきさんっ、ごめんなさっ……♡」 「あぁー、はづきまで。もう…色んな女の子のこと考えすぎですよぅ」  あれこれと様々な理由をつけて快楽のために色々なものを引き換えにしてきた。それはたったひとつ望んだ相手に気持ちを届けるためだった。けれど、今更になってようやく悟る。ただ千雪に気持ちよく辱めてもらうことに夢中になるあまり、その好かれたかった唯一の相手から“繁殖相手”と見做されるための男らしささえ、俺は手放してしまった。 「みんなにごめんなさいしました?」 「し、たっ……♡ したぁ……♡ ぁ、っぐ、ぅ、ぅぅぅ〜っ……♡ い、いなくなっちゃったっ……みんな、みんなっ……♡」 「大丈夫です。大丈夫ですよ、ここが拠り所です。まだ私がいますよ。あなたの千雪がいます」    女は子宮にその心を宿し、男の前立腺とは子宮の名残だ。ならば前立腺への愛撫は、心の深いところを直接弄くられる行為に同義ではなかろうか。かねてから、ずっと気になってはいた。時には自分を蔑ろにすることも厭わないほど周りの人間の事情を汲んでしまう千雪が、俺の尻穴を弄り回す時ばかりは俺の意志を聞き入れることよりも開発を優先する。  その執拗な指遣いはまるで“何かを刷り込みたがっている”ようだ、と。  手間暇をかけた尻穴愛撫によっていちばんの性感帯――心と密接に繋がってしまったその場所――に、指が深く深く沈み込む。 「大好きですよ、プロデューサーさん」 「ッッッ♡♡ うぉ、ぅ、……♡ ひ、ぃ、ゆひぃ……♡ ひゅ、ひぃっ……♡」 「すぅき……♡ すき、すき……♡」 「あ゛ぁっ……♡ う゛っ、う゛、ぅぅ……♡」  くにくにくにぃ♡ ぐ〜にぐにぐに♡  ぐにぐにぐにぃぃ〜〜♡♡  鍛冶職人が作品に銘を打つように、千雪の言葉が指先を伝って前立腺へと彫りこまれてゆく。すっかり懐いてしまっているその場所は銘入れを拒まない。千雪への好意と千雪からの好意――好きな人に唯一赦される気持ちよさが物理的なアクメと強く結びついて、深い地底から岩肌を舐めるマグマのようにせり上がってくる。  絶頂感を我慢する理由も存在しなくなった今、身体は絶頂を迎えやすい姿勢へとゆるみ始める。両手が支えの役割を放棄し、両肘がぺたんとソファにつく。より多くの快感を受け取ろうとして膝が徐々に浮いてきて、硬直する腿から踏ん張った足先までが一直線に伸びた。尻を基点に全身がやんわり“く”の字型に折れ曲がった、うつぶせ足ピンの格好。    「ぉっ、が、ぁ゛ぁ゛……っ♡ ぉっ、ぉ゛ー、ぉっ……♡♡」 「好き好き同士ならだいじょうぶ♡ かっこわるくてもだいじょうぶ♡ お尻でイってもだいじょうぶ♡」 「〜〜っっ♡♡ ん、ぅ、ぅ゛ぅ゛〜〜ッッ……♡♡」  喉の奥まで挿し込まれた千雪の指が、強烈なアクメの衝撃を悲鳴に逃がすことを許さない。上からも下からも穴を乱暴に侵食されて、“犯されている”と強く意識してしまう。まさに今背中にずっしりとのしかかっている女性的な膨らみも、歩くだけでぷるぷると上下に揺れて存在感を主張するまんまるなお尻も、その繋目にしては不安になるほど細くくびれた腰つきだって、なにひとつ俺は千雪の味を知らない。千雪は俺の全てを把握している一方で、かたや俺が彼女について知り得ていることといえば、流行りの中に好みを取り入れたセンス抜群の洋服とメイクとヘアアレンジ、お気に入りの小物で着飾った、“いちばん綺麗な桑山千雪”の姿だけ。  アクメを前にするといつもダメだ。心身ともに追い詰められると多くを望むまいという誓いが嘘のように、性欲の中にどろどろに煮詰まった執着心が溶け出してしまう。千雪のやわらかな唇をついばんでみたい。リップケアを欠かさないその唇を満足するまで吸い尽くしたい。千雪とお洋服の脱がし合いっこをしたい。ワンピースの脱がし方すらおぼつかないことをくすくす笑われて、チャックの場所を教わりたい。下着姿を前にして、艶めかしくて眩しすぎるその肢体に、彼女以上に恥じらってしまいたい。舐めるようないやらしい視線を優しく咎められたい。それからゆっくりと身体を重ねて、色欲を煽る言葉を囁きあって――。  あぁ、そういった欲求を何一つ叶えられないまま、これから一方的にイかされようとしている惨めさたるや。寂しくってもどかしくって悔しくって恥ずかしくって、だからこそ求めてしまう。昨日よりずっと今日の方が、今日よりきっと明日の方が恋しく思う。ここまで末期の片想いを拗らせている俺に、これ以上、千雪は何を望むのだろう。 「プロデューサーさん、そろそろイっちゃいそうですね♡ じゃあ、その……指を噛んでもらってもらっていいですか? 傷つけないようにしてくださっているお気遣いは嬉しいんですけど、やっぱり歯型だけでも、ほしいなぁ……って」  びくん、と肩が跳ねる。たとえ歯型でも傷は傷。数多の不埒な欲望を膨らませていたものの、それでも千雪の身体に傷をつけてしまうことは超えてはならない一線だと直感的に理解できる。俺が千雪をアイドルとして見ているかぎりは彼女を傷つける選択肢を取ることができない。独占欲を満たすためだけに我が物顔で女の体を傷つけてマーキング痕を残す行いは、ただのオスのそれだ。  俺という人間の本質が“プロデューサー”から“千雪を好く一匹のオス”へと不可逆の変質を遂げる、その最後の一線を踏み越えるようにと指先が俺のナカを追い立ててくる。 「私、消えない傷跡になりたいんです。だから、プロデューサーさんも私を傷つけてください」 「っ、ぇ、ぃないっ……♡ ぇ、ひ、な、いぃっ……♡」 「お願いです、優しい意気地なしさん。どうしてもほしいんです。この“左手の薬指”に。今はまだ、痕で我慢しますから。……ね?」 「っ、っ♡♡」 「さっき我慢汁お搾りをした時、まるで微睡んでいるみたいにふわふわゾクゾクしましたよね……♡ 切ない気持ちをまぜあわせてあんなに気持ちよかったんですから、独占欲をまぜまぜするなんて、ぜ〜ったい気持ちいいですよぅ……♡ 私はいっぱい開発したこの前立腺に、プロデューサーさんは私の約束の指に……“他のヒトに浮気しないで〜♡”ってマーキングしながら、思いの丈を吐き出すお尻の穴アクメ……♡」 「っ♡っ♡ ぅっっ♡」 「ココ、いちばん深いところ……♡ ぜ〜ったい、私以外に触らせないでくださいね……♡」 「っっ♡ っ♡」 「だめ……♡ だめ……♡ ぜ〜ったい、だめ……♡ 他の子でおちんちん勃てちゃヤです、他の子でえっちなこと考えちゃヤです……なびかないで、よそ見しないで……。でも、私にだけはとびっきりよわよわでいてください……♡ 声を聞いただけで甘い囁きを思い出してドキドキしてほしい……♡ 誰にも言えないイかされ癖をつけたこの指を、ずぅっと恥ずかしがってほしい……♡」  耳から、鼻から、指先から、千雪の独占欲が染み込んでくる。底知れない思いの沼に溺れて、藻掻く、藻掻く。 「エネマグラ前提の筆おろし用に開発されちゃった身体のせいで、お尻の穴を弄ってもらえないセックスに興味を失ってほしいです……♡ 私と初めてをあげっこする約束だけが拠り所になってほしい……♡ “千雪とじゃなきゃセックスできない”って本気で思い込んでほしい……♡ それで、セックスがしたくて、したくて……ぎゅぅぅ〜っ…♡って抱きついてきてほしいです……♡ “えっちしたいよ〜♡えっちしたいよ〜♡”ってお尻の穴をきゅんきゅん疼かせて、おねだりの好き好きハグ……♡ 想像してみてください♡ 腕の中いっぱいに私のやわらかい身体……♡ 腕ですら握ればきっと指が沈みこんじゃいますし、腰なんか掴みやすいですよ? なのにお尻は男の人のおっきな両手を使っても覆いきれないでしょうし、きつく抱きしめようとしてもお胸で胸板をぽよんぽよん弾き返しちゃうんですから♡ それでも無理やりぎゅ〜〜って抱き寄せられた人には、千雪の匂いをい〜っぱい吸い込めちゃいます♡ ご存知ですか? 女の子の髪の毛の内側って、その子のベッドの中と同じ匂いがするんですって……♡ コロンやお化粧品の香りの奥にある、女の子のあまぁ…い生活臭……♡ そんなの嗅いじゃったら、童貞さんのお身体なんて“女の子を押し倒してる〜♡”って勘違いしちゃうかもですね♡ もっとも〜っと、セックスしたくなっちゃう……♡ い〜っぱい拗らせた劣等感を濯ぐ、念願のいちゃいちゃハメハメを目の前にしたプロデューサーさんは……くすっ♡ きっとかっこわるぅ…く、サカッちゃうんだろーな〜……♡♡」 「うぅ♡ ぁ、っぐぅ♡ うぅぅぅ〜〜〜っ……♡♡」 「たくさんお射精はさせてもらってるものの、まだ本来の用途では一回も使わせてもらったことのないおちんちんを一生懸命ヘコヘコ〜♡って♡ そんなかわいいおねだり見せられたら、ふふ、意地悪したくなっちゃいますよぅ……♡ 本気でえっちをしたがってるプロデューサーさんのお尻を撫で回しながら、私はこう聞き返すんです……♡ “じゃあ今日はお尻の穴、弄らなくてもいいですか?”って♡ 散々開発しておいて、いざとなったら突き放しちゃうわるぅい女の子ごっこ〜♡ ちゃんと、やさしく傷つけてあげますからね……♡」 「ん゛っ♡♡ ぅ、ぐ、ぅぅ〜〜っっ♡♡」 「……あら? あっ……♡ ふふ。はい、イクの我慢しないでいいですよ」  ぶるり、と身体がふるえる。毛穴がすぼまり足先から順々に総毛立ちはじめ、俺は理由がわからず混乱した。変圧によって睾丸の中身が蠢き、チンポの根本へと精液が集まってくるこの感覚は射精のスイッチが入った時のそれだ。だが尻穴を揉みほぐす指遣いが不意に強められた訳では無い。むしろ千雪はずっとぎりぎりの閾値を超えないように、細心の注意を払って前立腺に圧をかけ続けていたように思う。ならば、射精への後押しとなってしまったのは――。 「興奮しすぎちゃったんですね……♡ ごめんなさい、うまく手加減できなくって」 「っ♡ 〜〜っっ♡♡」  ――丁寧な愛撫を受け続けた結果、とうとう自分を子宮だと誤認してしまった前立腺が、千雪にほのめかされたシチュエーションに高ぶって自ら疼くことで射精を誘発したのだ。子宮を開発済みの少女が下腹部を撫でられただけで期待して甘イキするようになる“雑魚まんこアクメ”と原理は同じ。しかし、そのみっともなさは比べようもない。  俺はまかり間違っても男だ。男だと思っていた、その自負がどろどろに輪郭を失ってゆく。 「あっあっ♡ ほーら、もうイク……♡ イクイク…♡ イっちゃう、イっちゃいますね〜……♡ それじゃあ……最後になっちゃいましたけど……今日こそは、プロデューサーさんのお気持ち、聞かせてくださいますか」  クリトリスを優しく潰すような力加減で、腸壁越しの弱点がトントン♡とリズミカルに揺さぶられる。すると精液が溜め込まれている睾丸から鈴口にかけて精液の通り道が意思とは関係なく緩み、尿道を押し広げながら精液がせりあがってくる。俺はここに至ってようやく尻穴ほじりというオス失格の射精さえ千雪に手心を加えられ、手のひらの上で転がされていたことに気づいたのだ。  思いの丈を告げながらイクのであれば、“好き”以外の言葉は思いつかない。そのはずだった。けれど土壇場で口から飛び出したのは感極まった告白にも劣る、思いを寄せる相手に追い縋る言葉。溜め込んだ白濁とともに、情けないことこの上ない女々しい本音が搾り出されてしまう。 「き、きらいにっ、なら、ないで、っ……♡ ち、ゆひぃっ……♡」 「っ…♡ はいっ♡ 余さず、ぜんぶいただきますね」 「あ゛っ♡ ぐ、ぁ……♡ ぁ、おっ、ぉ゛ーっ……♡」  どっぷっ……♡ どぷっっ♡ どっぷぅ……♡  どろどろどろぉ……♡♡ びゅるっ、びゅぷぅ……♡♡  チカチカと瞼の裏が明滅して、寒気に似た何かが全身を包む。それが絶頂感だと知覚する時には既に白濁は漏れ滴っていた。子宮の奥に遺伝子を送り届けようという気概を失ってしまった勢いのない精液たちが、好きな女の指に追い立てられてとろとろと尿道の奥から溢れ出す。“俺が射精をしている”のではなく、“千雪に射精をさせられている”という自覚が深く刷り込まれるような射精。それはもはや“吐精”という蔑称が与えられて然るべき絶頂だ。好きな相手に告白すらまともにできない、弱オスの片想い煮こごり汁。卵子を追いかけ回す前のめりな積極性は喪ってしまっているくせに、尿道の中をどっくんどっくん♡と押し広げている様子が感じられてしまうほどに粘度と量は凄まじい。鼻提灯のように膨らんでずっしり肥えてゆくコンドームの重みをチンポの先に感じて、俺は亡我の絶頂感の中で羞恥心にふるえた。 「ラブコールしてほしかったなぁ……♡ さみしいな〜……♡」  前立腺をぎゅむぎゅむと指圧し、チンポを扱いてする射精がアホらしく感じてしまうほどの快楽をもたらしながらの意地悪な囁きが真っ白な頭の中に流れ込んでくる。きっと本気で怒っているわけでも、拗ねているわけでもないのだろう。ただ俺の情けなさを煽ってマゾ快楽を増長させるための意地悪だ。けれど本音をいえば俺だって、千雪が俺にしているみたいに、己のエゴを吐き出したい。身の程知らずな欲望を受け止めてほしいという気持ちがなくなったことなんて一度もない。 「っ、ぐ、ぁぅ……が、ぁ、む……♡」 「あ……♡」  真っ白いペンキで塗りつぶされた意識の中、かろうじて残っている正気を総動員して左手の薬指を喰む。細心の注意を払って、がじがじと噛み痕をつける。これがプロデューサーであることも千雪が好きな男であることも諦めきれなかった意気地なしな男の精一杯。 「……やっと傷つけてくれた」  喜色の滲んだ声色。そんな声が聞けたのなら、思いきって良かったなんて、ほっとしたのもつかの間。 「っ!? ぇ、ぁっ……♡ まっ、でっ……♡ ち、ゆっ……♡」  第一陣の精を搾り尽くしたはずの指が再び動き出す。普段は休憩をはさみながら数度の射精に分けて睾丸の中身を搾り取る、俺の体力を気遣った搾精がなされるのだが――イッたばかりの敏感な場所を続けざまにほじられ、身体が警告を訴えるようないやな脂汗が出てくる。 「もう、プロデューサーさんのせいですよ? 今日はお泊りですからね」  確信する。これは頑として譲らないと決めた時の千雪だ。まさかの可能性が頭をよぎる。てっきり千雪は俺のプロデューサーとしてのガワを剥ぐために、ありとあらゆる手練手管を尽くしているのだとばかり思っていた。だが彼女はこれでも良識的な範疇を超えないよう、己の願望も“堕としテク”もまだ遠慮の余地を残しているのだとしたら。 「っ、や、やだっ、ちゆぃ、き、やだっ、やだぁ……♡♡」 「くすっ……♡ だ〜〜〜〜め♡♡」  ――その翌日、近所では一晩中どこからともなく聞こえてくる猫の夜鳴きの噂が立った、とだけ付け加えておく。 《終》 原作にないキャラクター設定  プロデューサーさん ・童貞、自覚のないマゾ ・千雪のことを女性として好いているが、プロデューサーとしての責任感もまた同じぐらい強く、決定的な言葉を口に出していえない男  桑山千雪 ・淑やかなお姉さんヅラしといて、独占欲がとても強い ・好きな男の禁欲精液コンドームで手作りハーバリウムを作る女


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